パンアメリカン航空708便墜落事故

1966年 11月15日に発生したパンアメリカン航空708便の墜落事故は、航空史に残る悲劇の一つです。この事故では、フランクフルト発ベルリン・テーゲル空港行きのボーイング727-21型機が、目的地手前で地上に激突し、乗員3名全員が命を落としました。

事故の概要

パンアメリカン航空708便は、フランクフルト国際空港を離陸後、ベルリン・テーゲル空港への着陸態勢に入っていました。しかし、着陸許可を得た直後、滑走路から約16キロメートル手前の東ドイツ領内で墜落しました。当時、東ドイツはソビエト連邦の影響下にあり、アメリカの調査官は事故現場への立ち入りを拒否されました。このため、事故原因の徹底的な究明は困難を極めました。機体の残骸は一部がアメリカに返還されましたが、重要なフライトデータレコーダーやコックピットボイスレコーダーなどは回収されず、事故の真相は謎に包まれたままとなりました。

事故機

事故を起こしたボーイング727-21型機（機体記号：N317PA）は、1966年1月11日に初飛行を行った比較的新しい機体でした。総飛行時間は1,804時間で、プラット・アンド・ホイットニーJT8D-7エンジンを3基搭載していました。機体の状態は良好であり、整備上の問題は報告されていませんでした。

乗員

事故機に搭乗していたのは、経験豊富な3名のパイロットでした。

機長：41歳の男性で、総飛行時間14,212時間、ボーイング727での飛行時間は58時間でした。ダグラスDC-6、DC-7、ボーイング377、707の操縦資格も有していました。
副操縦士：42歳の男性で、総飛行時間17,542時間、ボーイング727での飛行時間は32時間でした。ダグラスDC-4、DC-6、DC-7、ボーイング377の操縦資格も有していました。
航空機関士：34歳の男性で、総飛行時間4,700時間、ボーイング727での飛行時間は17時間でした。

乗員は全員ベテランであり、機体の操縦に関する技術的な問題があったとは考えにくい状況でした。

事故の経緯

パンアメリカン航空708便は、フランクフルトからベルリンへの定期便として運航されていました。通常はベルリン・テンペルホーフ空港に着陸する予定でしたが、滑走路の舗装工事のため、一時的にベルリン・テーゲル空港への着陸に変更されていました。

フランクフルトを2時04分に離陸した708便は、高度2,700メートルまで上昇しました。その後、2時35分にパイロットは管制官に対し、高度約910メートルまで降下中であることを報告しました。管制官は、2時38分に左旋回、方位030、高度610メートルを維持するように指示しました。その後、アウターマーカーの手前約10キロメートルで、管制官は右旋回、方位060、滑走路8RへのILS（計器着陸装置）進入を許可しました。パイロットが着陸許可を復唱した直後、機体は滑走路手前のソ連占領地域に墜落しました。当時、現場では雪が降っており、視界は2.6キロメートル程度に制限されていました。

事故調査

事故発生当時、ソ連は国際民間航空機関（ICAO）に加盟していませんでした。ICAO加盟国は、航空安全のために事故調査官の派遣を相互に認めていましたが、ソ連はICAOに加盟していなかったため、アメリカの調査官は現場への立ち入りを拒否されました。ソ連は、事故機の残骸の一部をアメリカに返還しましたが、フライトデータレコーダーやコックピットボイスレコーダー、制御機器、通信装置などの重要な部品は返還されませんでした。

事故調査委員会は、機体が許可された高度を下回って降下したことが墜落の原因であると結論付けましたが、なぜ降下したのかについては特定できませんでした。天候の悪さ、計器の故障、パイロットの判断ミスなど、様々な可能性が考えられましたが、決定的な証拠がないため、事故原因は不明のままとなりました。

事故の教訓

パンアメリカン航空708便の墜落事故は、国際的な協力体制の重要性を浮き彫りにしました。事故調査の遅れは、安全対策の遅れにもつながりかねません。また、事故原因の究明が困難な場合は、再発防止策を講じることが非常に難しいということを示しています。この事故を教訓に、国際的な航空安全体制の強化と、事故調査における国際協力の必要性が強く認識されました。

脚注

この記述は、国家運輸安全委員会（NTSB）の報告書を参考に作成されました。
* 参考文献として、[国家運輸安全委員会]]が発行した「AIRCRAFT ACCIDENT REPORT. PAN AMERICAN WORLD AIRWAYS, Inc. BOEING 727, N317PA NEAR BERLIN, GERMANY NOVEMBER 15, 1966」を参照してください。([https://www.baaa-acro.com/sites/default/files/2018-03/N317PA.pdf)

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