パーソンズ・マリン・スチーム・タービン

パーソンズ・マリン・スチーム・タービン社は、イギリスの北東部、タイン川沿いのウォールセンドに拠点を置くエンジニアリング企業として1897年に設立されました。設立者であるチャールズ・アルジャーノン・パーソンズは、蒸気タービン技術の開発に大きく貢献した人物です。50万ポンドの資本金を元に設立された同社は、海軍艦艇向けの蒸気タービン製造に特化した工場を建設しました。

パーソンズ社は、イギリス海軍における蒸気タービン技術の導入に大きな役割を果たしました。同社製のタービンを搭載した最初のイギリス海軍艦艇は、歴史的な戦艦ドレッドノートです。ドレッドノートの成功は、蒸気タービンが海軍艦艇の推進システムとして主流となる道を切り開きました。さらに、キュナード・ラインの豪華客船モーリタニア号とルシタニア号にも、7万3000馬力もの強力なパーソンズ社製タービンが搭載され、当時最速の客船として名を馳せました。インヴィンシブル級巡洋戦艦にも同社のタービンが使用されています。

パーソンズ社のタービンはイギリス海軍だけでなく、日本海軍にも採用されました。日本海軍で初めてパーソンズ式タービンを搭載した艦艇は、通報艦最上です。1908年に竣工した最上は、日本海軍における蒸気タービン技術導入の端緒となりました。その後、大正時代にかけて、ブラウン・カーチス式タービンと並んで、多くの艦艇にパーソンズ式タービンが搭載されるようになりました。

日本海軍におけるパーソンズ式タービンの採用は多岐に渡り、駆逐艦では、日本海軍初のタービン推進艦である海風型駆逐艦に搭載されました。巡洋戦艦では、金剛、比叡、霧島に搭載され、空母では鳳翔に搭載されています。また、三菱長崎造船所で建造された防護巡洋艦矢矧や、戦艦日向にもパーソンズ式タービンが採用されました。さらに、三菱重工業が改設計した三菱パーソンズ式タービンは、峯風型駆逐艦、多くの5500トン型軽巡洋艦、軽巡洋艦夕張、重巡洋艦古鷹などにも搭載されました。

日本海軍へのパーソンズ式タービンの供給は、1929年に竣工した青葉が最後となり、その後は国産設計の艦本式タービンへと移行していきました。パーソンズ・マリン・スチーム・タービン社は後にパーソンズ社に吸収合併され、現在ではドイツのシーメンスの一部門として、ニューカッスル・ヒートン地区にその名を残しています。パーソンズ社の蒸気タービンは、20世紀初頭の造船技術革新に大きな貢献を果たし、その技術は世界中の海軍艦艇や商船に広く用いられました。 同社は、世界的な造船史に重要な足跡を残した企業と言えるでしょう。

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