パーリンカ

パーリンカ：ハンガリーを代表する果実の蒸留酒

パーリンカ（Pálinka）は、ハンガリーで製造される、果物を原料とした蒸留酒です。EUの法律によって厳格に定義されており、ハンガリー国外で造られる同様の蒸留酒は「パーリンカ」と名乗ることはできません。フルーツブランデーやツイカ、ラキヤなどと区別されます。語源はスロバキア語の「燃やす（蒸留する）」を意味する「pálenka」に由来します。

原料と種類

パーリンカの原料となる果物は多種多様ですが、最も一般的なのはプラムで、次いでリンゴ、洋ナシ、チェリー、アプリコットなどが用いられます。基本的には、「素材の果物名＋パーリンカ」という名前で分類されます（例：プラムの場合「Szilva pálinka」、アプリコットの場合「Barack pálinka」）。

主なパーリンカの種類

Kisüsti: 1000リットル未満の銅製ポットスチルで二回蒸留して造られたもの。
Érlelt: 1000リットル未満の木製の樽で少なくとも3ヶ月間、または1000リットル以上の木製の樽で少なくとも6ヶ月間熟成したもの。
Ó: 1000リットル未満の木製の樽で少なくとも12ヶ月間、または1000リットル以上の木製の樽で24ヶ月間熟成したもの。
Ágyas: パーリンカに果物を最低3ヶ月漬け込んだもの。パーリンカの原料と同じ果物を漬け込むことが一般的だが、異なる種類のものでもよい。この時漬け込む果物はドライフルーツが好ましい。100リットルのパーリンカに最低10kgの熟した果実、または5kgのドライフルーツを漬け込む。
Törköly: ブドウの搾りかすから造られたもの。パーリンカの中でも最も古いタイプの一つで、食後酒として飲まれることが多くハンガリーでの人気も非常に高い。グラッパやマールと製法が同じため味わいや香りは非常に近い。

飲み方

パーリンカは、その豊かな香りを最大限に楽しむため、一般的にはストレートで飲まれることが多いです。オン・ザ・ロックや水割りなど、冷やしたり薄めたりする飲み方は香りが十分に立たないため、あまり一般的ではありません。ハンガリーでは、ショットグラスに注いだパーリンカを一気に飲むのがよく見られるスタイルです。ただし、アルコール度数が高いため、グラスに室温と同程度のパーリンカを少量入れ、香りとともにゆっくりと楽しむ飲み方も一般的です。グラスを手のひらで包み込むようにして温めると、香りがより一層引き立ちます。

製法

パーリンカの製法は、一般的なブランデーと同様です。品質は使用する果物の品質に大きく左右されるため、生産者は良質な果物を厳選する必要があります。

1. 果実の準備: 果物をペースト状（フルーツマッシュ）にします。種のある果実の場合は、蒸留後に毒性のあるシアン化合物が残らないように、種を取り除くのが一般的です。ただし、蒸留所や造り手によっては種を残す場合もあります。
2. 発酵: ペースト状にした果実を発酵させます。果物によっては、クエン酸や酵母などを添加する必要がある場合があります。発酵時の室温は14～16℃が理想とされ、発酵期間は蒸留所によって異なりますが、2週間前後が一般的です。
3. 蒸留: 発酵が終わったものを蒸留器に移します。この時、濾過は行いません。蒸留は二回行うことが多く、一回目の蒸留では主にアルコール分を、二回目の蒸留では果物の香りを抽出することを目的とします。一般的な蒸留酒と同様に、精製物のヘッド、ハート、テール（前半、中盤、後半）部分で分けます。前半部分は有害物質が多いため、使用せずに廃棄することが多いです。
4. 熟成: 蒸留後のアルコール度数は80%ほどありますが、加水して40%～60%ほどに調整した後、熟成させます。加水には濾過されたクリアな水を使用する蒸留所が多く、加水後にもう一度濾過してから熟成を行う場合もあります。熟成は樽（オーク、桑が多い）で行うこともありますが、一般的にはステンレスタンクで行われるため、完成したパーリンカは無色透明になります。ステンレスタンクで熟成させた場合は、樽の香りがつかないため、純粋な果物の香りを楽しむことができます。

パーリンカ法

パーリンカは、EUの法律に基づいたパーリンカ法によって厳格に定義されています。この法律によって、パーリンカの品質と原産地が保護されています。

パーリンカ法の主な要件

ハンガリーで栽培された果物から発酵、蒸留し製造すること。
その他の材料を一切添加してはならないこと。
ハンガリーで栽培、発酵、蒸留、瓶詰めを行うこと。
アルコール度数が37.5%から86%の間であること。
濃縮されていない果汁とドライフルーツは添加が認められていること（ドライフルーツは発酵段階では使用できない）。

保護原産地呼称（PDO）

以下のパーリンカは、保護原産地呼称（PDO）によって保護されています。

Békési Szilvapálinka（ベーケーシ・シルヴァパーリンカ/プラム）
Gönci Barackpálinka（グンツィ・バラツクパーリンカ/アプリコット）
Kecskeméti Barackpálinka（ケチュケメート・バラツクパーリンカ/アプリコット）
Szabolcsi Almapálinka（サボルチ・アルマパーリンカ/リンゴ）
Szatmári Szilvapálinka（サトゥマーリ・シルヴァパーリンカ/プラム）
Pannonhalmi Törkölypálinka（パンノンハルミ・トゥークリパーリンカ/ブドウの絞りカス）
Újfehértói Meggypálinka（ウーイフェヘールトーイ・メッジパーリンカ/サワーチェリー）
Göcseji Körtepálinka（グーチェイ・クールテパーリンカ/洋ナシ）

歴史と法の変遷

パーリンカの法規制は、EUの法規制とハンガリーの国内法によって変遷してきました。

1989年：EUでスピリッツの原産地保護に関する統一規制が確立。
1997年：ハンガリーで商標及び地理的表示の保護に関する法律が施行。
1999年：「Szatmári Szilvapálinka」がハンガリーで初めて原産地の保護を取得。
2002年：「Pálinka」「Törkölypálinka」がEUで原産地呼称を認められ、ハンガリーの固有のものとして保護。
2004年：ハンガリーがEUに加盟し、生産方法を具体的に示した最初の本格的なパーリンカ法が施行。
2008年：EUで蒸留酒の定義、説明、表示に関する規則が発表され、ハンガリーでもパーリンカ法が改定。
* 2019年：EU規則が改正され、原料やアルコール含有量に関する規定が明確化。

パーリンカは、ハンガリーの豊かな自然と伝統が育んだ、高品質な果実の蒸留酒です。その独特の風味と香りを、ぜひストレートで味わってみてください。

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