パーントゥ

宮古島のパーントゥ：来訪神による泥まみれの厄払い

パーントゥは、沖縄県宮古島で行われる独特な厄払いの伝統行事です。「パーントゥ」とは、宮古島の方言で「鬼神」や「お化け」を意味し、仮面をつけた神が島を訪れ、人々に泥を塗りつけて厄を払うという、非常にインパクトのある儀式です。この行事は、平良島尻（ひららしまじり）と上野野原（うえののはら）の2つの地区でそれぞれ異なった形で行われています。

1982年に「宮古のパーントゥ」として国の選択無形民俗文化財に選ばれ、1993年には重要無形民俗文化財に指定されました。さらに、2018年にはユネスコの無形文化遺産「来訪神：仮面・仮装の神々」の一つとして登録され、国際的にもその価値が認められています。

語源

「パーントゥ」の語源は諸説ありますが、有力なのは「パーン（食む）」と「ピトゥ（人）」が訛ったものという説です。これは、神が人々の厄を「食う」という意味合いを示唆しているのかもしれません。

平良地区島尻のパーントゥ：泥まみれの神

島尻地区では、「パーントゥ・サトゥプナハ」と呼ばれる行事が行われます。旧暦の特定の時期に3回行われる「サトゥプナハ（里願い）」のうち、3回目にパーントゥが現れます。

パーントゥは、親、中、子の3体の神として現れ、それぞれ選ばれた青年が扮します。彼らは、シイノキカズラという蔓草を身にまとい、「ンマリガー（産まれ泉）」と呼ばれる井戸の底に溜まった泥を全身に塗りたくり、異様な姿で現れます。この泥は強烈な臭いを放ち、塗られると数日間は臭いが取れません。

パーントゥは、集落の発祥の地であるウパッタヌシバラという拝所で祈願した後、集落を回って人々に泥を塗りつけて厄払いをします。家の中にも上がりこみ、新築の家や事務所には必ず訪れるとされています。

この行事の起源は、数百年前、島尻地区の海岸に黒と赤の仮面が漂着し、村人がこれを神として崇敬したことに始まると伝えられています。かつては、共同体の秩序を維持するために、厄介者を引きずり回すことも行われていたそうです。

近年では、観光客が興味本位で参加し、苦情が相次ぐという問題も発生しています。泥を塗られたり、抱きつかれたりすることに対する不満や、パーントゥへの暴行事件も起きており、開催中止も検討されました。現在は、日程を公表せず、観光客の大量流入を防ぐとともに、パーントゥに護衛をつけるなどの対策がとられています。参加する際は、パーントゥの神聖な行事であることを理解し、迷惑をかけないように注意が必要です。

上野地区野原のパーントゥ：静寂の中の厄払い

野原地区では、旧暦12月最後の丑の日（うし）に厄払いが行われます。地元では「サティパロウ」または「サティパライ」とも呼ばれています。

この行事には、成年女性と少年のみが参加し、成年男性や少女は参加しません。少年がパーントゥの面をつけ、「ニーマガー」と呼ばれる井戸から出発し、他の少年たち、2列に並んだ婦人たちが続きます。少年たちはほら貝を吹き、小太鼓を打ち鳴らし、婦人たちはクロツグやセンニンソウで作った草冠を被り、ヤブニッケイの枝を持って行進します。

行列はまず、集落の東にある大御嶽（おおたけ）の前で礼拝し、その後、「ホーイホーイ」と唱えながら集落内を行進して厄払いをします。集落の南西の端にあるムスルンミという場所に到着すると、草冠、草帯、小枝を外し、巻き踊りをして行事は終了します。

野原のパーントゥは、島尻のパーントゥとは対照的に、静寂の中で行われるのが特徴です。

パーントゥは、宮古島の文化と信仰が色濃く反映された、非常に貴重な無形文化遺産です。訪れる際は、その歴史と文化を尊重し、地元の人々の生活に配慮した行動を心がけましょう。

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