ヤブニッケイ

ヤブニッケイ（Cinnamomum yabunikkei）

ヤブニッケイは、クスノキ科クスノキ属に分類される常緑高木です。別名としてマツラニッケイ、クスタブ、クロダモ、ウスバヤブニッケイ、ナンジャモドキなどがあります。日本では、近畿地方以南から沖縄にかけての地域に自生しており、山地や雑木林でよく見られます。特に海岸近くに多く、シイ林やタブ林といった二次林の構成種として重要な役割を果たしています。

分布と生育環境

ヤブニッケイは、日本の本州（福島県以南、北陸地方以西）、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮の済州島や中国にも見られます。しかし、日本における自然分布は近畿以南から沖縄に限られています。乾燥に強く、暖地の野山や雑木林によく生育し、特に海に近い場所で多く見られます。シイ林やタブ林の二次林では、主要な構成種として重要な役割を担っています。

形態的な特徴

ヤブニッケイは、高さ10〜20mに達する常緑広葉樹です。樹皮は灰黒色から茶褐色で滑らかです。枝は黄緑色で、毛はありません。葉は、ほぼ対生しますが、少しずれていたり互生に見えることもあり、亜対生と呼ばれます。葉身は長さ6〜12cmの長楕円形で、芳香があります。葉は革質でごわごわしており、しばしば波打っています。表面は深緑色で光沢があり、3本の葉脈が白っぽく透けて見えます。クスノキの葉に似ていますが、葉脈の付け根に突起がないことで区別できます。葉の形には変異が多く、分類が複雑です。沖縄では、シバニッケイやマルバニッケイとの雑種と考えられるものも存在します。

花期は6〜7月で、枝先の葉腋から長い柄を出し、淡黄緑色の小さな花を散形状にまばらに咲かせます。花被は筒状で、先端が6つに裂けます。果実は長さ約15mmで、10〜11月頃に黒っぽく熟します。

冬芽は卵形から長卵形で、芽鱗は赤褐色で光沢があります。冬芽もクスノキに似ていますが、やや稜があるのが特徴です。

利用

ヤブニッケイは、庭木として利用されることが多く、成長が早く葉がよく茂るため、目隠しとしての効果が期待できます。潮風にも比較的強く、海岸近くでの防風植栽にも適しています。植栽の適期は、3月下旬から4月、6月下旬から7月中旬、9月とされています。

材木は建築材や器具材として利用され、葉や樹皮は薬用、種子からは香油や蝋を取ることができます。葉や根皮には香りがありますが、ニッケイ（シナモン）に比べると香りは劣ります。

その他

ヤブニッケイは、シロダモと生育環境が似ており、よく混同されることがあります。ヤブニッケイの別名であるクロダモは、シロダモと対比して名付けられたと考えられています。

参考文献

鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、235頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
山﨑誠子『植栽大図鑑［改訂版］』エクスナレッジ、2019年6月7日、88 - 89頁。ISBN 978-4-7678-2625-7。
平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、64頁。ISBN 4-522-21557-6。
茂木透 写真『樹に咲く花 離弁花1』高橋秀男・勝山輝男 監修（改訂第3版）、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2003年、398頁。ISBN 4-635-07003-4。

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