ヒッチハイク効果

ヒッチハイク効果

ヒッチハイク効果（hitchhiking effect）とは、集団遺伝学において、ある遺伝子座で生じた有利な対立遺伝子が自然淘汰によって集団中に広がる際、その対立遺伝子と遺伝的に強く結びついている（連鎖している）他の遺伝子座の中立的あるいはわずかに有害な対立遺伝子が、直接的な淘汰圧を受けていないにもかかわらず、共に頻度を増加させる現象を指します。

この現象は、有利な対立遺伝子を持つ染色体領域が、集団内で選択的に有利であるためにそのコピー数を増やしていく過程で起こります。その際、同じ染色体上の近くに位置する他の対立遺伝子も、あたかも有利な対立遺伝子に「便乗」するかのように、一緒に頻度が増加します。これが「ヒッチハイク」という名の由来です。

より具体的に考えると、集団中に新しく有利な突然変異（例えばA’）が生じたとします。この有利な変異体がある染色体上の遺伝子座Xに存在し、その近くの別の遺伝子座Yには様々な対立遺伝子（例えばb1, b2, b3...）が存在しているとします。もし遺伝子座Yの対立遺伝子b1が、たまたま遺伝子座Xの有利な対立遺伝子A’と同じ染色体上に位置していた場合、自然淘汰によってA’の頻度が増加するにつれて、連鎖しているb1の頻度も増加します。たとえb1自体が中立であったり、わずかに集団中の適応度を低下させる性質を持っていたとしても、A’の強い選択的有利性がその影響を打ち消すかたちで頻度を押し上げることになります。一方、A’と連鎖していない他の対立遺伝子（例えばb2やb3）は、相対的に頻度が低下していくことになります。

ヒッチハイク効果は、遺伝的組換えの頻度と密接に関連しています。組換え頻度が低い染色体領域では、より広い範囲の遺伝子座が有利な対立遺伝子と強く連鎖するため、ヒッチハイク効果の影響を受ける範囲が広がり、連鎖する対立遺伝子の多様性がより大きく低下します。有利な変異が急速に集団中に広がり固定される際に、その周辺の領域の遺伝的多様性が低下する現象は、ヒッチハイク効果と組換えの複合的な結果として「選択的スイープ（selective sweep）」と呼ばれます。

ヒッチハイク効果と対比される概念として「バックグラウンド選択（background selection）」があります。バックグラウンド選択は、強い精製淘汰（有害な対立遺伝子を集団から取り除く淘汰）がかかっている遺伝子座と連鎖している対立遺伝子が、有害な対立遺伝子の除去に伴って一緒に頻度を減少させ、結果としてその領域の多様性を低下させる現象です。ヒッチハイク効果は有利な選択によって多様性が低下するのに対し、バックグラウンド選択は有害な選択によって多様性が低下するという点で異なります。

ヒッチハイク効果は、集団の遺伝的多様性のパターンに大きな影響を与えることが知られています。特に、機能的に重要な遺伝子が存在し、正の淘汰がかかりやすい領域の近傍では、ヒッチハイク効果によって多様性が低下していることが多くの生物種で観察されています。このような多様性のパターンは、自然淘汰の働きを検出するための手がかりとなります。

この概念は、集団遺伝学や分子進化の研究において基礎的な重要性を持つものであり、集団の遺伝的構造や進化の過程を理解する上で欠かせないものです。特に、DNA配列の多様性データを用いて自然淘汰の痕跡を探索する研究において、ヒッチハイク効果は重要な考慮事項となります。

参考文献

Maynard Smith, J., & Haigh, J. (1974). The hitch-hiking effect of a favourable gene. Genetical Research, 23(1), 23-35.
Hill, W. G., & Robertson, A. (1966). The effect of linkage on limits to artificial selection. Genetical Research, 8(3), 269-294.

関連項目

対立遺伝子
集団遺伝学
自然選択説
連鎖不平衡
選択的スイープ
バックグラウンド選択

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