ヒッポメネース

ヒッポメネース（古希: Ἱππομένης）は、ギリシア神話において重要な役割を果たす人物の一人です。彼はオンケーストスの王メガレウスとその妻メロペーの息子として生まれ、特に名高い女狩人であるアタランテーを妻としたことで知られています。彼の物語は、オウィディウスの『変身物語』、セルウィウス、ヒュギーヌスといった古代の著述家たちによって語り伝えられています。

ヒッポメネースの生涯で最も有名なエピソードは、アタランテーへの求婚です。アタランテーは並外れた俊足と狩りの腕を持つ一方で、結婚に対しては消極的でした。彼女は神託によって結婚しないよう警告を受けたか、あるいは彼女自身の意志、または結婚を望む父の意向を受け入れつつも、自分に相応しい相手を見つけるため、ユニークな条件を提示しました。それは、彼女との結婚を望む者は誰であれ、彼女との徒競走に勝利しなければならず、敗北した者は容赦なく殺害される、という過酷なものでした。彼女の驚異的な速さゆえに、多くの勇敢な求婚者たちがこの挑戦に挑みましたが、皆失敗し、命を落としました。

ヒッポメネースは、そのようなアタランテーの姿を見て恋に落ちましたが、彼女に正面から競争を挑んでも勝ち目がないことを悟っていました。そこで彼は愛と美の女神アプロディーテーに助けを求め、熱心に祈りを捧げました。アプロディーテーは彼の願いを聞き入れ、彼に三つの輝く黄金の林檎を与えました。そして、徒競走の最中にこれらの林檎をコース上に落とし、アタランテーの注意を逸らすようにと助言しました。この黄金の林檎については、オウィディウスはキプロス島のタマソスにあるアプロディーテーの聖なる木から取られたものだとし、セルウィウスは伝説のヘスペリデスの園にあった林檎だと伝えています。

ヒッポメネースはアプロディーテーから授かった林檎を手に、アタランテーとの競争に臨みました。競争が始まると、アタランテーはその速さで瞬く間に彼を追い抜こうとしましたが、ヒッポメネースは女神から教えられた通り、一つ目の林檎をコース脇に投げました。黄金の輝きに目を奪われたアタランテーは思わず立ち止まってそれを拾いました。その間にヒッポメネースは再びリードを奪いましたが、再びアタランテーは彼に追いつこうと迫りました。彼は次に二つ目の林檎を落とし、アタランテーは再び立ち止まってそれを手に入れました。しかし、ゴールの近くまで来たところで、アタランテーが再び彼に迫り、ヒッポメネースは最後の林檎を投げました。この三つ目の林檎は特に魅力的だったのか、あるいはゴールが間近だったためか、アタランテーが林檎を拾うために費やしたわずかな時間が決定的な差となり、ヒッポメネースは彼女より先にゴールラインを越えることができました。

この勝利によって、ヒッポメネースはアタランテーと結婚する権利を得、二人は夫婦となりました。しかし、彼らの幸福は長くは続きませんでした。結婚後、ヒッポメネースの故郷へと向かう旅の途中、彼らは大地母神キュベレーの聖域に立ち寄りました。そこで二人は、聖域において神に対する不敬な行為に及びました。この行為はキュベレーの激しい怒りを買いました。伝承によっては、ヒュギーヌスのように最高神ゼウスが怒ったとする説や、オウィディウスやセルウィウスのように、ヒッポメネースが勝利の助力を与えてくれたアプロディーテーへの感謝を怠ったため、女神が怒り、彼らを愛欲に駆り立てて聖域で不敬行為を犯させた結果、キュベレーが罰として彼らを獅子に変えた、とする説も伝えられています。

一度獅子に変えられたヒッポメネースとアタランテーは、以降、キュベレーの神聖な戦車を牽く存在になったと語られています。セルウィウスは、このキュベレーの戦車を地上の地球そのものと見なす解釈を示しています。このように、ヒッポメネースは愛する女性への求婚のために神の助けを得て成功を収めながらも、その後の行動によって悲劇的な最期を迎えた人物として、ギリシア神話に名を残しています。

なお、アポロドーロスが伝える異伝では、アタランテーに徒競走で勝利し、後に共にライオンに変えられた人物は、アムピダマースの息子であるメラニオーンであるとされています。このことから、アタランテーの物語には複数のバージョンが存在することがわかります。

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