ヒトジラミ

ヒトジラミ (人虱) について

ヒトジラミ Pediculus humanus は、ヒトに寄生するシラミの一種です。ここでは、特に断りがない限り、アタマジラミとコロモジラミを同一種として扱います。

概説

シラミは宿主特異性が高く、ヒトにはヒトジラミとケジラミ Pthirus pubis のみが寄生します。ケジラミは主に陰部に生息しますが、ヒトジラミは頭髪（アタマジラミ）や衣服（コロモジラミ）に生息します。アタマジラミとコロモジラミは、形態的には明確な差はありませんが、遺伝的、生態的に隔離されているため、亜種として扱われることもあります。

ヒトジラミは、吸血することで痒みを引き起こすだけでなく、発疹チフスなどの病原体を媒介するベクターとしても重要です。

形態

成虫の体長は2-4mm程度で、アタマジラミの方がやや小型です。体は扁平で弾力があり、半透明で淡い灰白色をしています。アタマジラミはコロモジラミに比べて黒みが強く、体側縁に沿って黒い斑紋があります。脚の先端は鋏状になっており、毛髪や繊維を掴んで移動するのに適しています。

生活史

卵は楕円形で乳白色をしており、毛髪や繊維にセメント様の物質で貼り付けられます。孵化には約1週間を要し、孵化した幼虫は成虫と同様に吸血しながら成長します。幼虫は7-16日で3回の脱皮を経て成虫になり、成虫は約4週間生存し、その間に約200個の卵を産みます。

習性

ヒトジラミはヒトのみを宿主とし、他の動物の血では生育できません。アタマジラミは常に頭髪にいますが、コロモジラミは衣服の縫い目に潜み、吸血時のみ肌に移動します。コロモジラミは、吸血できない状態でも1週間程度生存できますが、アタマジラミは2日程度で死亡します。

分類と系統

ヒトジラミは、伝統的にアタマジラミ P. humanus capitis とコロモジラミ P. humanus corporis の2亜種に分けられてきました。しかし、近年ではこれらを別種として扱うこともあります。

コロモジラミが衣服を住処とするようになったのは、人類が衣服を身につけ始めてからのことであり、アタマジラミからの分化は約10万年前と推定されています。

公衆衛生

ヒトジラミは接触感染によって広がりやすく、集団生活の場で発生することがあります。ヒトジラミが寄生した状態をシラミ症と呼び、激しい痒みや細菌感染症の原因となることがあります。

診断と治療

診断は、シラミの成虫や卵を視認することで確定できます。治療には、シラミの成虫から卵まで徹底的に駆除することが重要です。コロモジラミの場合は衣服を熱湯消毒し、アタマジラミやケジラミの場合は洗髪と専用の櫛で物理的に駆除します。必要に応じて、ピレスロイド系の殺虫剤を含むシャンプーなどを使用します。

感染症の伝搬

コロモジラミは、発疹チフス、塹壕熱、回帰熱などの感染症を媒介することがあります。これらの感染症は、過去に戦争や飢饉の際に大流行し、多くの犠牲者を出しました。

日本の現状

日本では、戦後の衛生環境の改善により、ヒトジラミの発生は激減しました。しかし、近年では薬剤耐性を持ったシラミの出現や、シラミに対する知識の不足などにより、再び増加傾向にあります。特に、アタマジラミは幼稚園や小学校などの集団で感染が拡大することがあります。

日頃から適切な衛生管理を心がけ、シラミの発生を防ぐことが重要です。

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