ヒメウシオスゲ

ヒメウシオスゲ (Carex subspathacea)

ヒメウシオスゲ (Carex subspathacea) は、カヤツリグサ科のスゲ属に属する多年生草本です。この植物は主に寒冷地の塩性湿地に自生しており、特に日本では北海道と青森県でのみ確認されています。国外では広い範囲の周北極地域に分布しています。

特徴

ヒメウシオスゲは、根茎が太くて強固で、横に這った形で成長します。群生を形成するため、他の植物と共生しながら成長します。根茎の基部にある鞘は美しい赤紫色を帯びており、葉身自体も発達しています。この鞘は細かく繊維質に裂けることがあります。葉幅は約0.5～1.5mm程度で、縁は内側にやや巻かれる特徴があります。葉質は柔らかく、滑らかで、葉裏は粉白色となっています。

花茎は草丈の半分まで成長し、高さは5～30cmに達します。花茎には小穂が2～4個つき、頂部の小穂は雄性、側面の小穂は雌性でともに直立しています。花序の苞は発達し、基部には鞘はありません。雄小穂は線形で5～20mmの長さ、雌小穂は円柱形で長さ5～15mmです。雌花鱗片は果胞より短く、卵形で先端は鈍く尖った姿をしています。果胞は長さ3～4mm、卵形をしており、口部は滑らかです。

果実は2～2.5mmの長さで、断面はレンズ状になっています。また、柱頭は2つに裂ける特性を持っています。

生育環境と分布

ヒメウシオスゲは主に海岸の塩湿地に生育しており、特に塩分濃度の高くないエリアで見られます。この特徴的な生息環境では、ウミミドリなど他の植物と共生しながら成長することが確認されています。日本国内では、完全に分布が限られているこの植物は、環境の変化に敏感な存在となっています。

分類と類似種

ヒメウシオスゲは、雄性小穂と雌性小穂の直立性、苞に鞘がないこと、果胞に小点が密布していること、柱頭が2つに裂ける点から、勝山が提唱したアゼスゲ節 (sect. Phacocystis) に分類されています。この節には日本に25種程度が存在し、濃色の鱗片を持つ種もあります。特に、ヒメウシオスゲに似たウシオスゲ (C. ramenskii) は、主に北海道に見られますが、高さや葉幅が大きく異なり、また基部に葉身がない鞘を持つ点が特徴です。

保護の状況

日本の環境省が作成したレッドデータブックによると、ヒメウシオスゲは「準絶滅危惧 (NT)」に分類されています。特に青森県での絶滅危惧I類に指定されており、その保護が求められています。

参考文献

• - 勝山輝男『日本のスゲ 増補改訂版』 (2015)、文一総合出版
• - 星野卓二他『日本カヤツリグサ科植物図譜』 (2011)、平凡社
• - 中西弘樹『日本の海岸植物図鑑』 (2018)、トンボ出版

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