ヒメスズメバチ

ヒメスズメバチは、ハチ目スズメバチ科に分類される昆虫で、学名を Vespa ducalis といいます。その種小名「ducalis」は、「公爵の」「指導者」といった意味を持っています。

形態

成虫の体長は、働きバチでおよそ25ミリメートルから33ミリメートル、女王バチは32ミリメートルから35ミリメートル程度です。多くの個体では、腹部の後方二節が黒いという特徴があり、この点で他の多くのスズメバチと見分けることが比較的容易です。ただし、後述するツシマヒメスズメバチ亜種はこの特徴に当てはまりません。

生態

日本のスズメバチ属の中で、ヒメスズメバチが作る巣の規模は最も小さい部類に入ります。巣全体の育房数はおおむね100から450程度と報告されています。巣を構築する場所も特徴的で、木の枝のような開けた空間ではなく、地中や木のうろといった閉鎖的な環境を選んで営巣します。巣で活動する働きバチの数は非常に少なく、通常は10匹から40匹ほどです。また、巣が維持される営巣期間も他のスズメバチに比べて短い傾向があります。

餌としては、主にアシナガバチ属やホソアシナガバチ属の巣を積極的に襲います。一つのヒメスズメバチの巣を維持するためには、約150から200ものアシナガバチの巣が必要になるという試算もあり、その捕食量の多さがうかがえます。

分布

ヒメスズメバチは、日本国内では本州、四国、九州をはじめ、佐渡島、伊豆諸島、大隅諸島、対馬、琉球諸島など、広く生息しています。ただし、琉球諸島の中でも沖縄本島での確実な記録は現在のところありません。日本国外では、台湾、中国、朝鮮半島、そしてロシアの沿海州にかけて分布しています。

人間との関わり

スズメバチの仲間としては、非常に攻撃性が低いおとなしい性質を持つ種類として知られています。そのため、人に対する被害報告も他のスズメバチに比べて最も少ないとされています。

分類上の変遷と亜種

過去には、ヒメスズメバチはネッタイヒメスズメバチ（Vespa tropica）の亜種として扱われた時期もありましたが、その後の研究により、現在では別種として分類されています。

いくつかの亜種が確認されており、代表的なものとして以下が挙げられます。

Vespa ducalis 原名亜種 Smith, 1852
Vespa ducalis pulchra (日本本土亜種) Buysson, 1905
本州、四国、九州、佐渡島、屋久島、トカラ列島の中之島など、主に日本本土から北琉球にかけて分布します。亜種名の「pulchra」は「美しい」という意味です。
Vespa ducalis esakii (ツシマヒメスズメバチ) Sonan, 1935
長崎県の対馬のみに生息する固有亜種です。他の多くの亜種とは異なり、腹部末端の節が黄色く、腹部全体としても黒色よりも黄色が目立つ色彩をしています。性質は本土亜種と同様におとなしいとされています。亜種名の「esakii」は、日本の著名な昆虫学者である江崎悌三氏に献名されたものです。
Vespa ducalis loochooensis (リュウキュウヒメスズメバチ) Bequaert, 1936
沖縄県の石垣島と西表島に分布します。
Vespa ducalis pseudosoror Van der Vegt, 1959
この亜種は、原名亜種のシノニム（異名同種）として扱われる場合もあります。
亜種名未定
鹿児島県の奄美大島に分布する個体群は、現在も亜種名が確定していません。

このように、ヒメスズメバチはその比較的小さな巣と閉鎖空間での営巣、アシナガバチへの高い依存度、そしてスズメバチとしては温和な性質といった、興味深い生態を持つ昆虫です。

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