ヒメニラ

ヒメニラ：可憐な春の妖精

ヒメ学名: Allium monanthum'>[ニラ]は、ヒガンバナ科ネギ属に属する多年草です。別名ヒメアマナ、ヒメビルとも呼ばれ、その名の通りニラに似た、しかしより繊細で優しい香りを持ちます。早春に姿を現し、短い期間だけ可憐な花を咲かせるスプリング・エフェメラル、春の妖精として知られています。

特徴：小さく、それでいて存在感がある

ヒメニラの地下には、長さ6～10mmほどの小さな球形の鱗茎があります。春、芽生えの時期には、花茎の基部から1～2枚の葉が伸びます。葉は線形から広線状倒披針形で、長さ10～20cm、幅3～8mmと細長く、先端は鈍く尖り、基部は次第に細くなります。葉脈は9～13本あり、断面は三日月形で中空ではなく、柔らかく厚みのある質感です。

4～5月が花期です。高さ5～10cmの細い花茎の先端に、通常は1個、稀に2～3個の白い花、または淡い紅色の花を上向きにつけます。花の基部には、裂けない卵状膜質の総苞が1つあります。花被片は6枚で、外花被片3枚、内花被片3枚が離れて鐘形をなし、長さは4～5mmです。興味深いことに、ヒメニラには雄株、雌株、両性株が存在します。雄花は花被片の先端が鈍頭またはやや凹頭で、6本の雄蕊と小型の結実しない雌蕊があります。雌花は花被片の先端がやや鋭頭で、雄蕊はなく、3裂した花柱を持ちます。受粉後には球形の蒴果を結びます。まれに両性花も見られます。

分布と生育環境：限られた場所にひっそりと

日本では北海道から九州まで広く分布していますが、生育地は限られています。湿り気のあるやや傾斜した崖地、山野の湿地、田畑の土手などに生育し、個体数は生育地によっては多いものの、全体としては稀な植物です。朝鮮半島、中国東北部、ウスリー地方にも分布しています。環境省では絶滅危惧種に指定されていませんが、関東地方以西の17都県では、絶滅危惧種またはそれに準ずる指定を受けている地域もあります。

名前と利用：可憐な姿と意外な利用法

和名の「ヒメニラ」は「姫韮」を意味し、ニラの小型版であることを示しています。種小名monanthumは「一花の」という意味で、通常1つの花をつけることに由来します。

朝鮮料理では、ヒメニラの鱗茎を食用とします。1本ずつ丁寧に掘り起こし、水洗いしてひげ根を取り除いたものを、かき揚げの具や麺類の薬味として用います。ニラよりも刺激が強く、葉質はより繊細で柔らかく、珍味として珍重されています。

ギャラリー

(ここにヒメニラの美しい写真などを掲載)

脚注

(参考文献のリスト)

参考文献

林弥栄監修、平野隆久写真『山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花』、1989年、山と溪谷社
橋本郁三著『食べられる野生植物大事典（草本・木本・シダ）』、2007年、柏書房
牧野富太郎原著、大橋広好・邑田仁・岩槻邦男編『新牧野日本植物圖鑑』、2008年、北隆館
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 1』、2015年、平凡社
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）
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