スプリング・エフェメラル

スプリング・エフェメラル（春植物）とは

スプリング・エフェメラルとは、春先に花を咲かせ、夏まで葉をつけると、あとは地下で過ごす一連の草花の総称です。春植物とも呼ばれ、「春のはかない命」を象徴する存在として「春の妖精」とも称されます。これらの植物は、落葉樹林の林床で、短い期間にその生命を輝かせます。

スプリング・エフェメラルの特徴

代表的なスプリング・エフェメラルであるカタクリを例に挙げると、その生態がよくわかります。カタクリは地中深くに球根を持ち、冬を越します。春、雪解けとともに地上に現れ、すぐに花を咲かせます。しかし、その花期は短く、春が本格化する頃には葉のみとなります。葉も6月頃には枯れ、再び地下で冬眠の準備に入ります。このように、地上に姿を見せる期間は約2ヶ月と短いのが特徴です。

スプリング・エフェメラルは、春先に花を咲かせ、夏までの間に光合成を行って地下の栄養貯蔵器官や種子に栄養素を蓄え、その後は春まで地中の地下茎や球根の姿で過ごす、という生活史を持ちます。これらの植物は、いずれも小柄な草本で、地下に根茎や球根を持っています。また、花が大きく、華やかな色彩を持つものが多いです。これは、まだ寒い時期に背を高く伸ばすことが難しいこと、そして、限られた期間で花を咲かせるために、エネルギーを花に集中させているためと考えられます。地下に根茎や球根を持つのは、気温も低く、光も強くない春先に素早く成長し、まず花をつけるためです。例外的にショウジョウバカマは、ほぼ同時期に花を咲かせますが、常緑性で、年中葉をつけています。

生育環境

スプリング・エフェメラルは、温帯の落葉広葉樹林に適応した植物です。冬に落葉した森林では、早春にはまだ葉が出ていないため、林床は日差しが十分に差し込みます。この明るい場所で花を咲かせるのが、これらの植物です。やがて樹木に新芽が出て、若葉が広がり始めると、次第に林内は暗くなりますが、それでも夏まではやや明るい状態が保たれます。スプリング・エフェメラルは、この光が十分にある間に光合成を行い、その栄養を地下に蓄えます。したがって、これらの植物は森林内に生育しているものの、性質としては日向の植物と言えます。

日本の場合、落葉広葉樹林帯に当たるのは、本州中部以北、あるいはそれ以南であれば標高の高い地域です。日本全体から見れば、北方系の要素と言ってよいでしょう。ただし、実際にはそれ以南の地域でも見られるものがあります。特に、里山はそれらが比較的よく出現すると言われています。これは、人為的な撹乱によって、常緑樹林帯にありながら落葉樹林が成立し、その結果、落葉樹林帯の植物が侵入しやすくなったためと考えられています。里山の形成は、2000年ほど前まで遡ると考えられており、それ以前は、スプリング・エフェメラルはごく限られた環境で細々と生き延びていたのかもしれません。

また、約1万年前の最終氷期の終焉に伴い、氷期の落葉広葉樹林の生態系に適応した生活文化を持つ旧石器時代人が、新しい照葉樹林の生態系に文化の適応を起こして縄文人となった際、生活資源の獲得方法を熟知した落葉広葉樹林を維持するために、森林の一部に一定の手入れを続け、今日の照葉樹林地帯における里山や草原の原型を作り出して維持し続けたという説もあります。この場合、日本の照葉樹林地帯に見られるスプリング・エフェメラルは、縄文人による生態系操作によって間氷期を生き延びて現在に至っていると考えられます。

動物との関係

スプリング・エフェメラルは、虫媒花であり、春の早い時期に活動を始める少数の昆虫がその媒介を行います。多くは植物体に比べて大柄な花をつけるのは、それほど数の多くない活動中の昆虫の目を引くためと考えられます。これらの花の受粉を担っている昆虫は、北方系の昆虫であるマルハナバチの冬眠から目覚めたばかりの新女王蜂や、低温環境下でも活発に活動できるハナアブ科のハエ類が多いです。例えば、カタクリやエゾエンゴサクの花は、マルハナバチの新女王蜂に受粉を依存しており、フクジュソウの黄色の皿状の花は、典型的なハナアブ類に適応した花の形態を示しています。

また、ギフチョウやウスバアゲハ（ウスバシロチョウ）など、春先のみ成虫が出現する昆虫のこともスプリング・エフェメラルと呼ぶことがあります。これらのチョウは、その美しい姿から、特にスプリング・エフェメラルと呼ばれることが多いようです。

代表的な植物

ヨーロッパではブナ林の春の花としてよく知られており、栽培されるものも多いです。球根や根茎で植える春の花にはその例が多いです。

日本産で代表的なものとしては、以下のものがあげられます。

キンポウゲ科:
キクザキイチゲ、ユキワリイチゲ、アズマイチゲ、イチリンソウ、ニリンソウなどのイチリンソウ属
フクジュソウ、セツブンソウ
ケシ科:
エゾエンゴサク、ヤマエンゴサク、ムラサキケマン
ユリ科:
* [カタクリ]]、ショウジョウバカマ、ヒロハノアマナ、[[バイモ属]

これらの植物は、いずれも春の訪れを告げる美しい花を咲かせ、私たちを楽しませてくれます。スプリング・エフェメラルは、まさに春の妖精と呼ぶにふさわしい、儚くも美しい存在です。

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