ヒルディブランドの挽歌

ヒルディブランドの挽歌

『ヒルディブランドの挽歌』（ドイツ語: Hildibrands Sterbelied）は、『勇士殺しのアースムンドのサガ』に収録されている韻文であり、しばしば古エッダの一つとして扱われます。このサガは全10章から構成されており、その9章目にこの歌は登場します。

物語の背景

物語の主人公ヒルディブランドは、祖父の仇であるスウェーデン王を討ち果たします。しかし、その王の娘の婚約者であったアースムンドは、仇討ちを誓います。運命のいたずらか、アースムンドは実はヒルディブランドの異母兄だったのです。兄弟は互いの素性を知らぬまま戦い、ヒルディブランドは命を落とします。その死の間際に、彼は6節からなる短い歌を詠みます。

この歌の1節目は、兄弟殺しという宿命に対する深い嘆きを表現しています。「兄弟殺しに生れついた者がどうなるか、予想するのはすこぶる難事だ。ダンメルクでドロットがあなたを生み、スヴィジオーズでわたしを生んだのだ。」という一節は、避けられない悲劇を暗示しています。（谷口幸男訳）

類似伝承

『ヒルディブランドの挽歌』には、いくつかの類似した伝承が存在します。

ヒルデブラントの歌: 9世紀に成立した『ヒルデブラントの歌』は、最も古い類似伝承として知られています。この物語では、テオドリック王の忠臣ヒルデブラントが、生き別れになっていた息子ハドゥブランドと出会います。ヒルデブラントが自分の父親だと名乗るものの、ハドゥブランドはそれを信じず、父を騙る偽者だと誤解します。そして、二人は戦いに至りますが、物語は結末が不明のまま終わります。
デンマーク人の事績: 『デンマーク人の事績』第7巻には、騎士ヒルディゲルが弟ハルダンと戦い、命を落とす物語が描かれています。ヒルディゲルは死ぬ直前に、自分が兄であることをハルダンに告白します。
シズレクのサガ: 『シズレクのサガ』では、シズレク（テオドリック王）の功臣ヒルデブランドが、その息子アリブランドと戦います。ただし、この戦いは腕試しのためのものであり、殺し合いには至りません。
ニーベルンゲンの歌: 『ニーベルンゲンの歌』に登場するテオドリック王の功臣ヒルデブラントは、最後にクリームヒルトを殺害しますが、肉親を殺すというエピソードは含まれていません。

参考文献

西田, 郁子「勇士殺しのアースムンドのサガ」『サガ選集』日本アイスランド学会（編訳）、東海大学出版会、1991年5月17日、203-229頁。ISBN 4-486-01152-X。 
『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口, 幸男 訳、新潮社、1973年8月30日。ISBN 978-4-10-313701-6。 
Neckel, Gustav; Kuhn, Hans (1983). Edda: die Lieder des Codex Regius. 1. Text. (5 ed.). Heidelberg: Winter. ISBN 3-533-03081-4 
Simek, Rudolf; Pálsson, Hermann [in 英語] (2007). "Hildibrands Sterbelied". Lexikon der altnordischen Literatur (2 ed.). Stuttgart: Kröner. p. 180. ISBN 978-3-520-49002-5。

関連項目

* オリーウスの剣とアリーウスの剣

もう一度検索