ヒルドル

ヒルドルは、北欧神話に登場するヴァルキュリヤの一人であり、古ノルド語で「戦い」を意味する言葉に由来します。彼女は、戦場における死者を蘇らせる力を持つとされ、特に『ヘジンとホグニの伝説』においては、その能力が重要な役割を果たします。

ヒルドルとヘジンとホグニの伝説

『ヘジンとホグニの伝説』において、ヒルドルはホグニの娘であり、ヘジンの妻として登場します。この伝説の中心となるのは、ヘジンとホグニの間で繰り広げられる終わりのない戦いです。ヒルドルは、戦場で命を落とした戦士たちを蘇らせる力を使って、この戦いを永遠に続けさせようとします。この永遠の戦いは「ヒャズニングの戦い」としても知られており、北欧神話の中でも特に悲劇的な物語の一つとして語り継がれています。

ヴァルキュリヤとしてのヒルドル

ヒルドルは、『巫女の予言』や『槍の歌』といった古ノルド語の詩にも登場し、他のヴァルキュリヤたちと共に言及されます。ヴァルキュリヤは、戦場で勇敢に戦った戦士たちの魂をヴァルハラへと導く役割を担う存在であり、ヒルドルもまた、その一人として描かれています。しかし、彼女の持つ死者蘇生能力は、他のヴァルキュリヤとは異なる、独特な特徴と言えるでしょう。

「戦い」としてのヒルドル

古ノルド語の「hildr」は、そもそも「戦い」を意味する普通名詞です。そのため、詩人たちがいつから「戦い」の象徴としてヴァルキュリヤを捉え始めたのかを特定することは容易ではありません。しかし、ヒルドルという名前が「戦い」そのものを意味することを考えると、彼女が戦いと密接な関係を持つ存在として、古くから認識されていたことは間違いないでしょう。

まとめ

ヒルドルは、北欧神話におけるヴァルキュリヤの一人であり、「戦い」を意味する名前を持つ、死者蘇生能力を持つ特別な存在です。『ヘジンとホグニの伝説』における彼女の役割は、永遠に続く戦いを象徴しており、北欧神話の持つ悲劇的な側面を色濃く反映しています。彼女はまた、ヴァルキュリヤという存在が、単なる戦士の魂の運び手ではなく、戦いそのものの象徴としても捉えられていた可能性を示唆する存在と言えるでしょう。

参考文献

Orchard, Andy (1997). Dictionary of Norse Myth and Legend. Cassell. ISBN 0-304-34520-2
Brodeur, Arthur Gilchrist (transl.) (1916). The Prose Edda by Snorri Sturluson. New York: The American-Scandinavian Foundation. Available online at http://www.northvegr.org/lore/prose/index.php.
Jónsson, Finnur (1931). Lexicon Poeticum. S. L. Møllers Bogtrykkeri, København.
谷口幸男訳、「スノリ『エッダ』「詩語法」訳注」『広島大学文学部紀要』第43巻No.特輯号3、1983年。
H.R.エリス・デイヴィッドソン(en)『北欧神話』米原まり子、一井知子訳、青土社、1992年、ISBN 978-4-7917-5191-4。
V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。

関連項目

* ヒャズニングの戦い

もう一度検索