ヒンツァート強制収容所

ヒンツァート強制収容所：知られざる恐怖の場所

ヒンツァート親衛隊特別収容所（SS-Sonderlager Hinzert）、またはヒンツァート強制収容所（Konzentrationslager/KZ Hinzert）は、ナチス・ドイツの支配下にあったプロイセン州ラインラントに存在した強制収容所です。ルクセンブルクとの国境からわずか30kmの場所に位置し、1939年から1945年にかけて、13歳から80歳までの幅広い年齢層の政治犯、合計13,600人が収容されました。収容された人々の多くは、ここから他の大規模な強制収容所へと移送されていきました。

収容所の場所と構造

収容所は、フンスリュック山脈を見下ろすホッフワルト高地に位置していました。最も近い村であるヒンツァート＝ペラートにちなんで名付けられ、標高550mの高地にあるため、冬は高湿度、強風、多量の降雨、濃霧、そして厳しい寒さに悩まされました。収容所は、周囲を針葉樹林に囲まれており、その木材は建設資材として利用されました。

収容所の入り口から、囚人の墓地がある道を通り進むと、厳重に警備された親衛隊の区画がありました。この区画には、収容所長や看守の宿舎、車庫、作業所など7つの小屋が建てられ、花壇で飾られていました。一方、囚人が収容されていた区画は約200m×200mの広さで、高さ3mの有刺鉄線フェンスと見張り塔で囲まれていました。囚人区画には、収容所長の住宅、衣服製造作業場、大工作業場、隔離室、死体安置所、消毒室、そして囚人の所持品を没収する「預かり所」がありました。

囚人は4つの小屋に収容され、各小屋は2つの部屋に分かれていました。各部屋には26個の二段ベッドがあり、1つの小屋あたりの理論上の収容人数は208人でしたが、後に藁布団が増やされ、560人にまで増やされました。特定のカテゴリー（たとえば「夜と霧」の法令で逮捕された人々）の囚人専用の部屋も存在しました。

収容所内には3つの建物があり、ゲシュタポの地方事務所、管理事務所、そして調理場が入っていました。点呼広場は、後に親衛隊が周囲に野菜農園を作ったために規模が縮小されました。広場の中央には拡声器付きの柱が立っており、囚人たちはこの柱に向かって長時間立たされるという罰を受けることもありました。また、午前4時30分からの囚人の運動場所としても利用され、その際にはドラムの音が鳴り響いていました。

収容所の歴史

ヒンツァート強制収容所は、元々1938年初めにジークフリート線建設作業に従事する労働者のための宿泊施設を接収して作られました。1939年8月16日に火災で全焼した後、1939年10月に「警察拘留収容所及び国家労働奉仕団の再教育収容所」として再建されました。当初は、軽い刑罰を受けた囚人や、ナチス政権によって反社会的とみなされた労働者を収容していました。これらの人々は、主にブレーメンのゲシュタポによって逮捕された人々でした。

囚人たちは、ジークフリート線の建設作業だけでなく、マンハイムやマインツの空軍基地建設といった軍事インフラの整備にも動員されました。1940年7月1日、収容所は親衛隊の強制収容所総監の監督下に移り、強制収容所となりました。1940年にドイツがベルギー、オランダ、ルクセンブルク、フランスなどを占領すると、これらの国々から「ドイツ化」が必要とされた政治犯が次々と移送されてきました。

1942年2月には[親衛隊経済管理本部]が設立され、すべての強制収容所が同本部の管轄下に入りました。ヒンツァートもその一つとなり、ルクセンブルクとトリーアに駐留するゲシュタポのための収容所としての役割を担うようになりました。「夜と霧」の法令で逮捕された囚人が到着するまでは、他の強制収容所と同様に運営されていました。しかし、「夜と霧」の囚人の到着後は、政治局と「拘留と安全保障」収容所が閉鎖されました。

ヒンツァートは独立した収容所でしたが、1944年11月21日にブーヘンヴァルト強制収容所の付属収容所となりました。1945年2月22日の空襲で収容所は大部分が破壊されました。その後も1945年3月3日まで運営され、生き残った囚人たちはヘッセンまで「死の行進」を強いられました。また、一部はブーヘンヴァルト強制収容所へと移送されました。

収容所司令官

1939年10月9日から親衛隊大佐ヘルマン・ピスターが収容所の司令官を務め、1941年12月までその職にありました。その後、親衛隊大尉エゴン・ツィルが司令官に就任しました。ツィルは以前、ダッハウ、ブーヘンヴァルト、ラーフェンスブリュック強制収容所で勤務していました。1942年4月にツィルがナッツヴァイラー強制収容所の副司令官になると、親衛隊大尉パウル・スポレンベルクがヒンツァート最後の司令官となりました。

囚人

総計13,600人の囚人がヒンツァート強制収容所を通過しました。最初の囚人は「反社会的」とみなされたドイツ人の労働者で、ジークフリート線の建設に従事していました。その後、占領された国々から連行された人々が加わりました。1941年初めには、ヒンツァートの囚人の多くはルクセンブルク人とフランス人の政治犯でした。その他に多かったのは、ソ連人とポーランド人（多くは捕虜や強制労働者）でした。「夜と霧」の法令で捕まった囚人（NN囚人）は、1941年12月7日以降、ダッハウ、ブーヘンヴァルト、ナッツヴァイラーなどのより大きな収容所へ移送され、その多くは「姿を消し」ました。

ヒンツァートには23の労働分隊があり、囚人たちは周辺地域の労働に動員されました。主な労働内容は、空軍基地のメンテナンス、泥水の排水、林業などでした。「夜と霧」の囚人たちも、その内情を隠ぺいするために労働分隊に所属させられていました。収容所の小屋は本来560人収容できるはずでしたが、実際には800人ほどが詰め込まれており、時には1600人に達することもありました。

殺人

ヒンツァートの囚人たちは、非常に劣悪な環境下での生活を強いられました。恐怖支配を維持するために、拷問や公開処刑が日常的に行われていました。しかし、ヒンツァートで殺害された正確な人数は不明です。多くの囚人は、他の大規模な強制収容所へ移送されるか、解放されるまで投獄され続けました。

ルクセンブルクの「レジスタンス国家審議会」によると、ヒンツァートに送られた1600人から1800人のルクセンブルク人のうち、少なくとも321人が殺害され、そのうち82人はルクセンブルク人でした。また、フランスの「流刑記念財団」によると、「夜と霧」でヒンツァートに送られた約1500人のフランス人のうち、フランスに生きて帰還したのはわずか390人で、少なくとも804人が殺害されたとされています。

記念碑

現在、ヒンツァートには、ルクセンブルク人彫刻家ルシアン・ヴェルコリによって制作された、殺害された囚人を追悼するブロンズの記念碑が建てられています。また、2005年12月10日には記念館も開館し、収容所の遺物、写真などが展示されています。

ヒンツァート強制収容所は、ナチス政権による恐怖と残虐行為の象徴として、今もなおその悲劇を伝えています。

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