ビュイック・センチュリー

ビュイック・センチュリーは、ゼネラルモーターズ（GM）のビュイック部門によって製造・販売された乗用車です。

その歴史は長く、世代によって車両の性格が大きく変化しました。初代および2代目は、パワフルなエンジンを搭載した高性能なフルサイズカーでしたが、3代目以降は時代背景に合わせて中型車へと転換しました。

また、特筆すべき点として、日本ではトヨタ自動車が「センチュリー」の商標権を保有していたため、ビュイック・リーガルという名称で販売されました。

2022年からは、中国市場において上海通用（上海GM）が、ビュイック（別克）ブランドの最高級ミニバンとして「センチュリー（世紀）」を販売しています。

初代（1936年-1942年）

ビュイックは1936年モデルイヤーに向けて、技術革新とデザイン改良を記念し、モデルラインアップ名を刷新しました。この際、それまでシリーズ60と呼ばれていたモデルが新たにセンチュリーと名付けられました。

初代センチュリーは、より短いホイールベースを持つビュイック・スペシャルを基本としながらも、ビュイック史上最も強力な直列8気筒エンジンを搭載したことで注目を集めました。スペシャルが3.8Lエンジンで最高出力93hpを発揮したのに対し、1936年から1942年に製造されたセンチュリーには165hpを誇る5.2L直列8気筒エンジンが搭載されました。これにより、時速95マイル（約153km/h）での巡航能力を持ち、当時のビュイックで最速を誇りました。

その高性能から、「銀行員のホットロッド」というニックネックで呼ばれることもありました。生産は1942年モデルイヤーの途中で終了し、累計生産台数はビュイック全体の約10%を占めるにとどまりました。

2代目（1954年-1958年）

1954年、ビュイックは再び高性能モデルを提供する目的で、センチュリーをラインアップに復活させました。この2代目モデルは、小型軽量なビュイック・スペシャルのボディに、ビュイックのフラッグシップモデルに搭載される最大最強の5.3L V8エンジンを組み合わせて誕生しました。この世代では、初代には存在しなかったステーションワゴンモデルも加わりました。

エンジンの出力は年々向上し、1954年には200hp、1955年には236hp、1956年には255hp、そして末期の1957年と1958年には6.0Lエンジンに換装され300hpに達しました。これにより、センチュリーはビュイックの高性能バージョンとしての地位を確固たるものとしました。

特筆すべきエピソードとして、1955年にはカリフォルニア高速警察が、一般向けには提供されなかった特注の2ドアセダン仕様を大量に発注したことが挙げられます。また、1957年から1958年にかけて製造された「センチュリーキャバレロ」は、GM唯一のハードトップステーションワゴンとして知られています。

1959年、ビュイックはセンチュリーの名称をインビクタへと変更しました。

3代目（1973年-1977年）

一時的に消滅していたビュイック・センチュリーの名称は、1973年に後輪駆動の中型車として復活しました。GMのAボディをベースに設計され、ポンティアック・グランプリやオールズモビル・カトラスといったモデルと共通性の高い姉妹車として登場しました。

1973年のGM中型車フルモデルチェンジに伴い、従来のスカイラークに代わってビュイックの中型ラインアップの中核を担う存在となりました。当初は、上級仕様のリーガルクーペと共にビュイックの小型ラインアップの柱と位置づけられていました。エンジンは、5.7L V8（150hpまたは175hp）、オプションで250hpを発揮する7.5L V8が設定されました。

1972年にスカイラーククーペが姿を消したことで、センチュリーは高性能版のグランスポーツ（GS）の伝統を引き継ぎました。排ガス規制の影響を受けつつも、1973年から75年のセンチュリーGSクーペは当時の基準で優れた性能を維持しました。

グレード構成では、1973年と1974年に上級のラグゼスが設定されましたが、1975年にはセンチュリーカスタムと改称されました。また、同年からは燃費規制に対応するため、110hpを発揮する新しい3.8L V6エンジンが標準搭載されました。7.5L V8はステーションワゴン専用オプションとなり、1977年には6.6L V8に置き換わりました。1976年にはGM中型車共通のフェイスリフトを受け、センチュリーも角型四灯ヘッドランプと新しいグリルデザインが採用されました。

1975年から1977年にかけては、ビュイック・スペシャルクーペがセンチュリーのエントリーモデルとして販売されました。これは、2ドアファストバックボディに特製のルーフ処理を施したモデルでした。

4代目（1978年-1981年）

1978年に発表された4代目センチュリーは、先代よりもさらにダウンサイズされました。ボディタイプは、ファストバック風のクーペ（エアロバック）、セダン（オールズモビル・カトラスサロンと共通ボディ）、そして伝統的なステーションワゴンの3種類が用意されました。

燃費規制の継続により、V6エンジンが引き続き標準でした。ベースエンジンは新開発の3.2L V6で、センチュリーとリーガル限定で導入されました。オプションとして3.8L V6やシボレー製5.0L V8も設定されました。1979年にはポンティアック製V8に代わってシボレー製エンジンが採用されています。

この世代の希少モデルとして、1979年から1980年に生産された3.8L V6ターボエンジン搭載の「ターボクーペ」があります。これは燃費とV8並みの性能を両立していましたが、リーガル版ほどの人気は得られず、生産台数は2,500台を下回りました。

ファストバックセダンも販売が振るわず、1980年には一般的なノッチバックセダンに変更されました。エアロバッククーペも1981年モデルで廃止されました。1982年に新しいFFモデルが登場すると、それまで販売されていたノッチバックセダンとワゴンはリーガルへと名称が変更されました。

5代目（1982年-1996年）

1981年に発表された5代目センチュリーは、FF駆動のAプラットフォームをベースに、再びダウンサイズされました。当初はクーペとセダンのみでしたが、1984年にはステーションワゴンが加わり、リーガルから名称変更されたワゴンに取って代わりました。同年にはロサンゼルスオリンピックを記念した特別仕様車も登場しています。

1986年にはフェイスリフトが行われ、より角張ったフロントデザインに変更されました。エンジンは110hpの3.0L V6が主流でしたが、直列4気筒やV6ディーゼルも設定されましたが、これらはあまり普及しませんでした。1980年代半ばには、ビュイックの高性能グレードであるT-タイプがセンチュリークーペにも設定されました。センチュリーT-タイプは控えめな外観でしたが、3.8Lエンジンは140-150hpを発揮し、比較的軽量なボディと相まって活発な走行性能を提供しました。

1985年から1986年にかけては、コーチビルダーによってコンバーチブルに改造されたモデルが少量（124台）製造され、ビュイックのディーラー網で販売された例もあります。

日本へは正規輸入されましたが、前述の商標問題から「ビュイック・リーガル」として販売されました。

デザイン面では、1989年に再びフェイスリフトを受け、曲線的なルーフラインや独自のリアクォーターウィンドウ処理が施されました。フロントもフラッシュヘッドランプと湾曲したグリルが特徴となりました。セダンは横一文字のテールライトが特徴的でした（日本仕様は一部不点灯）。

1991年にはエクステリアが一新され、現代的なデザインへと変更されました。1993年には新しい2.2L直4エンジンが導入され、1994年にはこのエンジン出力が向上しました。同年には3.3L V6に代わって160hpを発揮する3.1L V6が搭載されました。1994年にはクーペがラインアップから消滅し、運転席エアバッグが標準装備されるなど安全装備が強化されました。ダッシュボードデザインは長らく変更されませんでしたが、1994年モデルの途中でスピードメーターの形状が変更されました。

6代目（1996年-2004年）

1997年モデルとして登場した6代目センチュリーは、プラットフォームをWプラットフォームに移行し、再びリーガルと姉妹車の関係に戻りました。この世代では販売戦略が見直され、ステーションワゴンが廃止されて4ドアセダンのみとなりました。駆動方式はFF、エンジンはV6という構成は引き継がれました。

センチュリーとリーガルは基本的な構造を共有していましたが、フロントデザイン、搭載エンジン、装備などで差別化が図られました。センチュリーはリーガルよりも低価格帯に位置づけられ、ベンチシートやコラムシフトが採用され、エンジンも3.1L V6のみに絞られました。このエンジンは当初160hpを発揮しましたが、2000年モデルからは175hpにパワーアップされています。

廉価モデルながら、その整然としたデザインと品質の高さは引き続き評価されました。1998年にスカイラークが生産終了すると、センチュリーはビュイックの最も手頃なエントリーモデルとなりました。ビュイックは、このセンチュリーをトヨタ・カムリやホンダ・アコードといった日本のファミリーセダンに対する、より手頃な代替選択肢として位置づけました。

2003年にはフロントドアの「センチュリー」エンブレムが廃止され、テールライト部分のみに残されました。2005年には、全く新しいビュイック・ラクロスがセンチュリーとリーガルの後継モデルとして登場しました。最後のセンチュリーは2004年 10月25日にラインオフし、生産を終了しました。

中国市場においては、上海GMが1999年4月から中国仕様のセンチュリーを生産・販売していました。グレード構成はアメリカ仕様とは異なり、上級グレードも設定されていました。

7代目（ビュイック・GL8 センチュリー）（2022年-）

2022年11月3日、上海GMはビュイックブランドの新たなフラッグシップモデルとして、「センチュリー（世紀）」の名前を冠したミニバンを発表しました。

これは既存のミニバンであるGL8の上位車種として位置づけられています。パワートレインは2.0L直列4気筒ターボエンジンに48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせ、9速ATが組み合わされます。ボディサイズは全長5230mm、全幅1980mm、全高1864mm、ホイールベースは3130mmで、乗車定員は4名とされています。