ビリーバーズ

作品概要

『ビリーバーズ』は、漫画家・山本直樹が1999年に小学館の『ビッグコミックスピリッツ』で連載した青年漫画です。単行本はワイド版で全2巻が刊行されています。本作は、ある宗教団体が引き起こす社会的な問題や、教団の内部で信仰の形が歪み、セックス集団へと変質していく様を生々しく描いた作品です。

あらすじ

物語は、『ニコニコ人生センター』という宗教団体に属する3人のメンバーが、無人島で行われる特別な共同生活プログラム『孤島のプログラム』に参加するところから始まります。メンバーは、通信担当の『オペレーター』（丑山）と呼ばれる若い男性、プログラムの責任者である中年男性『議長』、そして唯一の女性メンバー『副議長』（菱子）の3人です。彼らは外部との接触を断ち、教祖の教えを復唱し、日々の夢を正直に語り合うことで共同生活を送ります。そこには、淫らな内容の夢も隠さず語り合うことや、『浄化』と称して自ら胸まで土に埋まり、僅かな水だけで数日を過ごすといった過酷な修行が含まれていました。

彼らにはもう一つの任務がありました。それは、地下に備蓄された中身不明のダンボール箱を少しずつ海岸の倉庫へ運び出すことです。本部からの無線で指定された番号の箱を運び出すと、真夜中に本部のメンバーが船で現れ、3人と顔を合わせることなく別のダンボール箱と交換していきます。食料もこの時に運ばれてきますが、その量は不定期で不足することも少なくありませんでした。

閉ざされた環境での生活が続く中、ある日、倉庫にあった正体不明の物質を『議長』が口にし、数日間もだえ苦しみます。高熱にうなされる中で『議長』は、海岸に漂着した週刊誌を盗み読んだことを告白します。そこには、彼らの宗教団体が世間から激しく非難され、危機的な状況にあると書かれていました。『オペレーター』は、それをマスコミによる情報操作だと信じ込もうとします。

外界の情報によって動揺が広がる中、クルーズ船から漂着した不良グループが島に現れます。島への上陸を拒もうとした3人は不良たちに襲われ、倉庫を無理にこじ開けようとされます。それを阻止するため、『議長』は倉庫に隠されていた銃を取り出し、不良たちを射殺してしまいます。夜中に本部のメンバーが現れ、粛々と死体を運び去ります。『副議長』はその事実を知りませんでしたが、『オペレーター』は過去にもこの島で、『浄化』によって土に埋まったまま死んでしまった3人の信者がいたことを知っていたようです。

不良たちとの衝突、特に『副議長』がレイプされかけた出来事を機に、『オペレーター』と『副議長』の間で男女としての意識が高まります。その変化に気づいた『議長』は、『オペレーター』だけに胸まで埋まる『浄化』を課し、何日も水だけで過ごさせます。さらに『議長』は、もっともらしい理屈を並べて『副議長』に結婚を迫るなど、次第に暴走を始めます。危険を感じた『副議長』は、本部に無線で『議長』の異常な行動を伝え、彼を倉庫に閉じ込めます。その夜、『議長』は本部の船によって島から運び出されていきました。

島に二人きりとなった『オペレーター』と『副議長』は、夫婦のように寄り添って生活を始めます。しかし、彼らの平穏は突然破られます。教祖が『安住の地への出発』を決めたとして、島に大勢の信者たちが上陸してきたのです。教祖の到着を待つ『副議長』の元へ現れたのは、『第三本部長』と名乗る男でした。彼は、かつて夫のDVに苦しんでいた『副議長』を教団へと誘い、愛人関係でもあった人物でした。

『第三本部長』は、島に来た信者たちが崩壊寸前の教団の最後のメンバーであり、教祖が集団自殺を計画していることを『副議長』に告げ、二人で逃げようと促します。しかし、彼は銃を持った保安部員に発見され、一人で姿を消してしまいます。信者たちを前に「安住の地」について語り始めた教祖は、メンバーに液体を配ります。それは、『議長』が口にして苦しんだ物質をさらに濃縮したような色をしていました。毒だと直感した『オペレーター』が「飲むな！」と叫んだその瞬間、教祖は『第三本部長』によって射殺されます。間髪入れずに機動隊が突入し、混乱の中で『副議長』は血まみれで倒れてしまうのでした。

事件後、拘置所に収監された『オペレーター』。そこに、生き延びて少数の教団信者と共に海外の大使館を占拠した『議長』からの要求が届きます。『オペレーター』たちの釈放と教団への復帰を求める『議長』の申し出に対し、『オペレーター』はそれを断り、独房へと戻ります。彼はもはや過去の『オペレーター』ではなく、愛する『副議長』を失った今、自由よりも不自由の中に安寧を求めるようになっていたのです。

作中の用語

本作では、登場人物のセリフなどが二重鉤括弧『……』で囲まれている場合があります。これは、団体内部で用いられる特殊な隠語や符丁が、便宜的に一般的な言葉に置き換えられて表現されていることを示しています。

映画版

2022年7月8日より順次、本作の実写映画版が公開されました。監督・脚本は城定秀夫が務め、磯村勇斗が長編映画初主演を果たしています。ヒロイン役の北村優衣は体当たりの演技を披露し、R15+指定となりました。主演の磯村勇斗は本作での演技により、第14回TAMA映画賞で最優秀新進男優賞を受賞しています。

関連事項

作品の舞台である孤島は、作者のメッセージによると、東京湾にある第二海堡がモデルになっていると示唆されています。また、同作者による『安住の地』という作品には、国外へ脱出した後の『議長』らしき人物が登場しており、『ビリーバーズ』と関連付けられることがあります。

作品のテーマや描写には、過去に社会問題となった宗教団体、特にオウム真理教や、集団での共同生活や極端な教義、集団自殺事件を起こした人民寺院などを想起させる要素が含まれています。また、作中の事件の一部は、クアラルンプール事件やダッカ日航機ハイジャック事件といったテロ事件を彷彿とさせるものとして挙げられることがあります。これらの社会的事実との関連性は、作品の持つリアリティと衝撃性を深めています。

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