ビリー・ザ・キッド (コープランド)

アーロン・コープランドが作曲したバレエ音楽『ビリー・ザ・キッド』（Billy the Kid）は、1932年に発表された『グローグ』に次ぐ、彼のバレエ作品としては2作目にあたります。

作曲の背景と初演

本作は、アメリカン・バレエ・キャラヴァンの主宰者であったリンカーン・カースティンの委嘱を受けて、1938年に作曲されました。初演は、まずバレエ版が同年10月にシカゴのオペラハウスで行われました。その後、ウィリアム・スタインバーグが指揮するNBC交響楽団によって、演奏会用の組曲版も初演され、広く知られることとなります。

題材と構成

作品は、19世紀後半のアメリカ西部開拓時代に実在したアウトロー、ビリー・ザ・キッド（本名：ウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア）の生涯を題材としています。ただし、物語は歴史的事実だけでなく、彼に関する半ば伝説化されたエピソードも取り入れており、史実とは異なる脚色が加えられています。

音楽は、ビリーの誕生から最期までを追う物語形式で構成されており、以下の場面が描かれます。

1. 序奏：涯しない大平原
3/4拍子による、悠然として荘厳な音楽で幕が開けます。広大に広がるプレーリーの風景が目に浮かぶようです。
2. 開拓者の町の踊り
活気あふれる開拓者の町の様子が描写されます。ここでは複数の場面が接続曲的に連なり、特にメキシコ娘の踊りを表す5/8拍子のテンポの速い部分が印象的です。この場面で、12歳になったビリーは母を殺した男に復讐し、アウトローとしての道を歩み始めます。
3. 夜のカルタ遊び
星明りの下、ビリーとその仲間たちが静かにトランプに興じる情景です。変イ長調のノクターン調の音楽で、弱音器をつけた弦楽器を背景にトランペットのソロが美しい旋律を歌います。
4. 拳銃の戦い
ビリーを追う、かつての友人であった保安官パット・ギャレット率いる捜査隊との激しい銃撃戦が繰り広げられます。ピアノが打楽器的に用いられ、ティンパニや低音楽器と共に銃声を模倣した音響が生み出されます。
5. ビリー逮捕後の祝賀会
ビリーが逮捕された後、関係者たちが勝利を祝って乾杯する賑やかな場面です。音楽的には、嬰ハ長調の低音の上にハ長調の旋律が乗るなど、複調の手法が用いられている点が特徴です。ビリーは投獄されますが、「伝説的な」脱獄を果たし、再び逃亡します。
6. ビリーの死
逃避行の途中、砂漠で休息していたビリーはパット・ギャレットに発見され、射殺されます。物語のクライマックスは、弦楽器を中心としたト長調の静かで美しいコラールで閉じられます。
7. 再び、涯しない大平原
序奏と同じ音楽が再び現れ、物語は始まりの広大な風景へと回帰し、終結を迎えます。

楽器編成

オーケストラの編成は、フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、クラリネット（B♭管）2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ、そしてグロッケンシュピール、シロフォン、シンバル、スレイベル、トライアングル、ギロ、ウッドブロック、テンプルブロック、むち、バスドラム、スネアドラムを含む多彩な打楽器群5名分、ハープ、ピアノ、そして弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）です。なお、「開拓者の町の踊り」の冒頭で聴かれる笛の音は、舞台上演時に限りティン・ホイッスルが使用されます。

演奏時間

演奏会用組曲版の標準的な演奏時間は約20分です。

『ビリー・ザ・キッド』は、コープランドが追求した「アメリカ的な」音楽スタイルを確立した作品の一つと見なされており、西部劇の世界観を巧みに描き出したその音楽は、現在でも多くの聴衆に愛されています。

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