ビートルズの海賊盤

ビートルズの海賊盤：未発表音源の歴史と現状

ビートルズは、数多くの海賊盤が制作されたロックバンドとして知られています。そのほとんどは音源ですが、映像作品も存在します。1960年代後半に最初の海賊盤が登場して以来、膨大な量の海賊盤が世界中で流通してきました。

海賊盤の音源

海賊盤に使われた音源は多岐に渡ります。テレビやラジオ放送、コンサートのライブ録音、試聴盤、個人所有のデモテープ、そして密かに複製されたスタジオセッションテープなどです。中でも、1969年のゲット・バック・セッションのリハーサルやレコーディング音源が最も多く海賊盤化されており、次いでBBCラジオ出演時の演奏やスタジオでのアウトテイクが続きます。

海賊盤の歴史

初期の有名な海賊盤としては、1969年頃にジャケットが真っ白な『Kum Back』があります。これはゲット・バック・セッションの初期ミックスのアセテート盤が元になっています。レノン本人は、自身の流出が原因だった可能性を示唆しています。

1970年代には、『Yellow Matter Custard』（BBCラジオ演奏）や『Sweet Apple Trax』（ゲット・バック・セッション音源）などが人気を博しました。また、1978年にはデッカ・レコードのオーディションテープが海賊盤としてシングル化されました。この時期は海賊盤業者が互いの盤をコピー・再発売することも多く、同一の音源が複数のレーベルからリリースされることも珍しくありませんでした。「The Amazing Kornyfone Record Label(TAKRL)」、「ContraBand」、「Trademark of Quality」、「Wizardo」などが代表的なレーベルです。

1980年代には、EMIが計画していた未発表音源集『Sessions』の海賊盤が出回り、後に『Ultra Rare Trax』、『Unsurpassed Masters』といった高音質の海賊盤CDシリーズが「Swingin' Pig」、「Yellow Dog」レーベルなどからリリースされました。これらのレーベルは著作権法が寛容なルクセンブルクに登録されていました。1991年には「Yellow Dog」レーベルがキンファウス・デモを収録した『Unsurpassed Demos』を発表しています。

1990年代には、イタリアの「Great Dane」レーベルがBBCラジオ音源のボックスセットをリリース。その後も、公式盤『Live at the BBC』『The Beatles Anthology』が発売されたにも関わらず、新たな海賊盤は出回り続けました。「Silent Sea」レーベルは高品質なCD-Rを発売し、「Vigatone」レーベルは『Thirty Days』という大規模なゲット・バック・セッション音源集をリリースしました。2000年代からは、DVDによる海賊盤ビデオも登場しています。

インターネットの普及は、海賊盤業界に大きな変化をもたらしました。「The Purple Chick」レーベルは、デジタル処理された高音質の音源をオンラインで無料配信しています。これにより、未発表音源の収集が容易になり、海賊盤購入の必要性が薄れてきました。

具体的な海賊盤音源

クオリーメン～ビートルズ初期

1957年のクオリーメンのライブ音源（「Puttin' On the Style」、「Baby Let's Play House」）、1958年のアセテート盤（「That'll Be the Day」、「In Spite of All the Danger」）、1960年のホームリハーサル音源などがあります。これらの音源の一部は『The Beatles Anthology』に収録されていますが、海賊盤には未収録の音源も存在します。

デッカ・オーディション（1962年）

1962年1月に行われたデッカ・レコードのオーディション音源は、海賊盤として様々な形態で流通してきました。その後、著作権問題により流通は停止されました。

キャヴァーン・クラブ時代

キャヴァーン・クラブでのリハーサル音源や、1962年8月22日と9月5日のグラナダ・テレビ撮影音源が海賊盤として流通しています。これらの映像は一部が『The Beatles Anthology』で使用されています。

スター・クラブ（1962年）

ハンブルクのスター・クラブでの演奏音源は、『Live At The Star-Club In Hamburg, Germany; 1962』として海賊盤アルバム化され、その後も様々なレーベルからリリースされました。後に訴訟により販売停止となりました。

BBCセッション（1962年～1965年）

BBCラジオ出演時の演奏音源は、高音質の海賊盤として多数流通しました。その後、公式盤『Live at the BBC』が発売されましたが、海賊盤は依然として出回っています。

スタジオ・アウトテイク

スタジオでのアウトテイクも膨大な量が海賊盤として流通しています。初期のものはアセテート盤の流出が原因でした。EMI内部からの流出などもありました。未発表音源集『Sessions』の企画段階で流出した音源も含まれます。

公演

1963年から1966年にかけて行われたコンサートの演奏も、多くの海賊盤が存在します。ワシントン・コロシアム公演、ハリウッド・ボウル公演、パリ公演、シェイ・スタジアム公演、日本武道館公演、キャンドルスティック・パーク公演など、様々な公演の音源・映像が海賊盤として流通しています。

テレビ番組

ビートルズが出演した多数のテレビ番組も、海賊盤として完全版で流通しています。『The Ed Sullivan Show』などが有名です。

ホーム・デモ

メンバーが自宅で録音したデモテープも、海賊盤として流通しています。レノンのデモテープにはラジオ番組『The Lost Lennon Tapes』で初公開されたものも含まれます。

クリスマス・レコード

1963年から1969年にかけて制作された、ファンクラブ会員向けクリスマス・レコードも海賊盤化されています。

ホワイト・アルバム（キンファウス）・デモ

1968年にハリスンの自宅で行われたデモセッションの音源も、海賊盤として流通していましたが、後に『The Beatles Anthology 3』と『The Beatles: 50th Anniversary Edition』に収録されました。

ゲット・バック・セッション

1969年のゲット・バック・セッションの膨大な音源は、数多くの海賊盤を生み出しました。アセテート盤の流出や、セッションテープそのものの流出が原因です。近年も高音質の海賊盤がリリースされ続けています。

解散後

解散後のメンバーのソロ活動の音源も海賊盤として流通しています。レノンとマッカートニーの共演音源である1974年のジャムセッションの海賊盤『A Toot and a Snore in '74』などが有名です。

アンソロジーの海賊盤

『The Beatles Anthology』の未発表音源を収録した海賊盤も数多く存在します。

公式アルバムのリマスター盤

公式CD盤の音質に不満を持った一部マニア向けに、海賊盤業者が独自にリマスターしたCDが制作・流通していましたが、公式リマスター盤の発売により減少しました。

公式レコード盤のCD化

長らくCD化されていなかった公式レコード盤も、海賊盤業者によってCD化され流通しています。

海賊盤になっていない音源

依然として、未発表の音源は数多く存在すると考えられています。1960年のクオリーメンのリハーサルテープ、1962年のキャヴァーン・クラブでの演奏テープ、メンバー個々の未発表デモ、1967年のサウンド・コラージュ「Carnival of Light」、未発表テイクなどです。

偽物・真贋に論争のある海賊盤音源

「Cheese and Onions」、「Have You Heard the Word」、「The L.S. Bumble Bee」、「Peace of Mind/The Candle Burns」など、ビートルズの未発表曲として誤って紹介された楽曲も存在します。

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