アセテート盤

アセテート盤について

アセテート盤、または録音盤は、円盤式レコード規格に基づく柔らかな合成樹脂でコーティングされた金属製の録音メディアです。一般的にはセルロース盤やワックス盤とも呼ばれ、初期のアセテート盤は亜鉛板にワックスエステルを塗布して作られていました。特にワックス盤は、この層構造を持つものを指すことが多いです。

通常、この盤の芯材はアルミニウムで、コーティングにはニトロセルロースやアセチルセルロースといった素材が使用されますが、アセテート繊維は含まれません。10インチの録音盤は、SP（単板）レコードの再生時間に近い約3分の録音が可能でした。1940年代後半には、長時間録音を実現するために16インチなどの規格が開発されましたが、磁気テープの普及により一般的には使用されなくなりました。

アセテート盤は流通用のシェラック盤やビニール盤と比べると強度が劣り、湿度や経年変化により表面が剥離しやすい特徴があります。また、針による摩耗も容易に発生し、再生回数には制約があったことが知られています。具体的には、1938年時点の国産品では約30回の再生でノイズ量が市販のSPレコードと同程度になってしまうとされています。この特徴により、物理的な記録特性から録音データの劣化は不可逆で、データの上書きやリセットもできません。

アセテート盤の主な用途

マスターディスクの作成

アセテート盤の重要な用途の一つは、レコード製造におけるマスターディスクの作成です。このプロセスでは、音質の確認や複製元の金型の作成に使用されることが多いです。この際には「ラッカー盤」と呼ばれることがあります。ラッカー盤は、録音された音が最終的にどのようにレコードに反映されるかを決定するうえで、極めて重要な役割を果たします。音質や音量を調整しながら、試験的に何枚も作成されることがあります。

2024年現在、日本のパブリックレコードがラッカー盤の生産を事実上独占しています。

プロモーション盤

アセテート盤は、特に迅速かつ安価な制作が可能なため、宣伝目的や音楽イベント用の編集済み音源として広く用いられました。1960年代後半からはジャマイカのDJやプロデューサーが、オリジナル音源を特注でアセテート盤に録音し、サウンド・クラッシュなどのダンスパーティで競い合いました。この際のアセテート盤は「ダブ・プレート」と呼ばれ、アセテートの使用が減少するとともに、これらの媒体はビニール盤やCD-ROMに取って代わられていきましたが、「ダブ・プレート」という名称だけは残りました。現在、アセテート盤での制作は主にコレクター向けとなっています。

業務用録音メディア

日本では、特にラジオ放送の初期において、アセテート盤が番組の録音素材として使用されました。光学録音や磁気録音などの技術が未発達な時期に、アセテート盤は唯一の音声記録媒体として機能していました。代表的な例として、終戦時の玉音放送があります。また、有事の際には軍による電話傍受などで証拠を保全するためにも利用されました。

民生録音メディア

日本では戦前に、カッティング録音用の部品が民生向けに流通しており、特注や自作によって録音を行っていた記録があります。例えば、民謡研究家の町田佳声は、1937年に「町田式写音機」というカッティング録音機を特注し、全国の民謡を集めました。1944年には兵庫県の中学生がラジオ受信機とカッティング録音機を組み合わせた装置を特注し、安全警報などのラジオ放送を録音しました。

戦後の1949年、日本電気音響（現在のデノン）がポータブルアセテート録音機「デンオン RC-1」を発売しましたが、安価なオープンリールテープの登場により、あまり普及しませんでした。

結論

アセテート盤は音楽制作や録音技術の歴史において、一時代を築いた重要なメディアです。様々な用途に応じて活躍し、音楽文化における欠かせない存在として記憶されていますが、現代ではデジタルメディアにその座を奪われています。

もう一度検索