ビーバー戦争

ビーバー戦争：17世紀北米を揺るがした血塗られた戦い

ビーバー戦争（またはフランス・イロコイ戦争、イロコイ戦争）は、17世紀半ばに北アメリカ東部で勃発した、インディアン部族とフランス植民地軍との一連の紛争の総称です。この戦争は、毛皮貿易、特にビーバーの毛皮を巡る激しい争いから発展し、多くの部族が巻き込まれ、北アメリカの勢力地図を大きく塗り替えることになりました。

戦争の背景

17世紀、イロコイ連邦は、農業を基盤とする軍事力を持つインディアン国家として勢力を拡大していました。彼らは、フランス人交易者と五大湖地域の部族との間の毛皮貿易を独占しようと試み、特にビーバーの毛皮を巡る争いが激化しました。この紛争はイロコイ連邦内での部族間の勢力争いを引き起こし、モホーク族が五大湖地域のアルゴンキン語族の多くの部族を支配するに至りました。

この戦争は非常に残虐なものであり、合衆国のインディアン戦争の中でも最も血塗られた戦いの一つとされています。イロコイ連邦の領土拡大は、ワイアンドット族（ヒューロン族）、ニュートラル族、エリー族、サスケハンノック族といった大きな部族同盟を破壊し、北東部の勢力図を塗り替えました。また、他の多くの部族をミシシッピ川西に追いやる結果となりました。オハイオ地域やミシガン半島の低地は、避難民がイロコイ戦士から逃れるために西へ移動したため、一時的にインディアンが不在の地域となりました。その後、オハイオのインディアン部族が戻ってきましたが、それは多くの部族が混じり合った「連合共和国」という形でした。

戦争の発端

1540年代に、フランス人のジャック・カルティエがセントローレンス川渓谷を探検した際、セントローレンス・イロコイ族と遭遇しました。カルティエの記録によると、彼らは要塞化された集落を占拠しており、他の部族と戦争をしていたとされています。しかし、ヨーロッパでの戦争や政策により、フランスによるセントローレンス川渓谷の植民地化は17世紀初頭まで進みませんでした。

フランス人が再びこの地に戻ってきたとき、セントローレンス・イロコイ族の集落は放棄され、見知らぬ敵によって完全に破壊されていました。イロコイ連邦の関与を指摘する歴史家もいますが、明確な証拠は乏しいです。イエズス会の報告書によると、1580年から1600年にかけて、モホーク族とサスケハノック族、アルゴンキン語族の同盟との間で激しい戦闘が繰り広げられていたとされています。

1601年にフランス人がこの地域を再訪した際、セントローレンス川渓谷は既に血で血を洗う戦いの場となっていました。サミュエル・ド・シャンプランがタドゥサックに上陸した際には、モンターネ族、アルゴンキン語族、ヒューロン族によって戦いに巻き込まれ、彼らの敵への攻撃に協力させられました。

イロコイ族とフランスの関係は当初協調的ではありませんでした。1609年、シャンプランはアルゴンキン族に加わり、シャンプレーン湖畔でイロコイ族と戦いました。シャンプラン自身も火縄銃でイロコイ族の戦士を殺害しました。1610年にもシャンプランはアルゴンキン語族とヒューロン族を支援し、イロコイ族を破りました。しかし、1630年代までにイロコイ族はオランダ人との交易で得た武器で武装し始め、アルゴンキン語族やヒューロン族との戦争で活用しました。

フランスは同盟部族への武器の輸出を禁じましたが、キリスト教に改宗した個人への贈り物として火縄銃が贈られることはありました。イロコイ族はまずアルゴンキン語族のマヒカン族、モンターネ族、ワイアンドット族を攻撃しましたが、これらの部族がフランスと同盟したことで、イロコイ族はフランス人入植者との血なまぐさい戦いに突入することになりました。

17世紀半ばに、イロコイ族の勢力圏内でビーバーが激減したことが、戦争を加速させたと指摘する歴史家もいます。イロコイ族は現在のニューヨーク州に住んでおり、他の部族に取り囲まれていました。1620年代にオランダ人がハドソン渓谷に交易拠点を設けたことで、イロコイ族は武器やヨーロッパ製品を求めて交易に頼るようになりました。しかし、銃の導入によってビーバーの減少に拍車がかかり、1640年までにハドソン渓谷からほぼ姿を消しました。これにより交易の中心はより北のセントローレンス川沿いの地域に移りました。

イロコイ族のヌーベルフランス攻撃

1640年代初頭、イロコイ族はフランスと交易していたワイアンドット族の集落を襲撃し始めました。1649年にはワイアンドット族の領地の中心部を攻撃し、重要な集落と数百人の住民を殺害しました。この攻撃では、イエズス会宣教師のジャン・ブレビュフ、シャルル・ガルニエ、ガブリエル・ラルマンも命を落としました。この攻撃により、残ったワイアンドット族は五大湖地方のアニシナベ連邦に避難しました。

1650年代初頭には、イロコイ族はフランス人入植者への攻撃を開始しました。モホーク族は連邦内で最も強力な部族であり、フランス人の存在に敵対的でした。カナクイーズ酋長による和平交渉が失敗すると、モホーク族はシャンプレーン湖からリシュリュー川を通ってヌーベルフランスに侵攻し、モントリオールを攻撃しました。彼らは森の中を素早く移動し、斧や皮剥ぎナイフで敵を襲撃しました。捕虜はイロコイ族の村に連れていかれ、女性や子供は部族の生活に組み込まれました。

イロコイ族の西部侵入

北部への攻撃と並行して、イロコイ族は西部への拡大も開始しました。1650年代までにイロコイ族は、バージニア植民地からセントローレンス川まで広がる広大な領域を支配しました。セネカ族が先導したイロコイの戦士団は、オンタリオ南部のニュートラル族連邦を破壊し、エリー湖岸のエリー族を壊滅させ、オハイオ地域にいたアルゴンキン語族のショーニー族を追い出しました。イリノイ地域はミシシッピ川まで支配下に置かれました。

イロコイ族の拡大は、スー族などの北東部の民族をミシシッピ川を越えてグレートプレーンズまで押し出し、彼らを農耕民から狩猟民へと変えました。多くの避難民は五大湖地域に溢れ、その地域に元々いた部族との争いを引き起こしました。

フランスの反撃と戦争の終結

1660年代半ばになると、フランスが正規兵を送り込み、戦争の流れが変わりました。フランス軍はイロコイ族の本拠地に侵攻し、多くのイロコイ族が飢餓で亡くなりました。イロコイ族は和平を求め、一時的に戦争は終結しました。しかし、1683年にフランスとイロコイ族の間の戦争が再開されました。

この戦争は、1698年にイロコイ族がイギリスに利用されていると気づき、戦争を終わらせたいと考え始めたことで終結に向かいました。1701年にモントリオールで締結された「大いなる平和」条約により、イロコイ族は略奪を止め、五大湖地方の避難民が東部に戻ることが認められました。

戦争の遺産

ビーバー戦争は、北アメリカのインディアン部族の勢力図を大きく塗り替えるとともに、フランスとイギリスの植民地支配にも大きな影響を与えた戦争でした。この戦争における数々の出来事は、その後のアメリカ史、カナダ史においても重要な役割を果たしました。

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