ピアノと弦楽のための協奏曲 (メンデルスゾーン)

メンデルスゾーンのピアノと弦楽のための協奏曲 イ短調 MWV.O2は、1822年に彼がわずか13歳で作曲した作品です。この作品は、メンデルスゾーンが一連のピアノ協奏曲の中で最初に手掛けた作品とされています。その歴史は非常に特異であり、作曲後一度演奏されたきり、長きにわたって忘れ去られていました。楽譜は20世紀になってようやく再発見され、1997年に初めて出版されたことで、広く知られるようになりました。かつては演奏・録音の機会が極めて限られていましたが、近年、この初期の傑作に対する関心が高まり、演奏される機会が徐々に増加しています。

この曲は、メンデルスゾーン家で開催されていたサロン演奏会のために書かれたと考えられていますが、作曲の背景に関する詳細は必ずしも明らかではありません。ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社からは、2台のピアノ用に編曲された版も出版されています。

楽曲解説

この協奏曲は、古典派以来の伝統的な3つの楽章で構成されています。編成は独奏ピアノと弦楽五部（ヴァイオリン2パート、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）です。全曲の演奏時間は約33分程度とされています。わずか13歳という年齢で書かれた作品でありながら、独奏ピアノには急速かつ技巧的な細かい音型が随所に求められるなど、演奏には高度な技術が必要とされます。若きメンデルスゾーンの早熟な才能と技術が存分に発揮された作品と言えるでしょう。

第1楽章

Allegro、イ短調、4分の4拍子。形式は古典的な協奏ソナタ形式が採用されています。提示部における第2主題はハ長調で提示されます。この楽章の音楽的な性格は、同時期に作曲された彼の弦楽のための初期交響曲群に近いものがあり、特に念入りな対位法技法が駆使されている点が特徴的です。若年ながら、複数の旋律線を巧みに組み合わせるメンデルスゾーンの書法の一端を見ることができます。

第2楽章

Adagio、ホ長調、3分の4拍子。比較的自由に構成されていますが、A-B-A-B-Aのようなロンド形式に近い構造を持っています。息の長い、歌謡的な旋律が中心となる主部（A部分）と、独奏ピアノが細かく動き回る対照的な嬰ハ短調の第2部（B部分）が交互に現れることで、楽章全体に変化と表情が生まれています。叙情的で美しい旋律が印象的な楽章です。

第3楽章

Allegro ma non troppo、イ短調、4分の4拍子。この楽章も、細かく疾走するようなピアノの主題を中心としたロンド形式を基盤としています。しかし、その展開は形式にとらわれすぎず、比較的自由に進められる点が特徴であり、これはヴァイオリンとピアノ、弦楽のための協奏曲など、同時期の他の作品にも見られる傾向です。ロンド主題が一度長調に転じ、テンポを緩めることで一種のクライマックスが築かれます。しかし、楽章はそこで終わらず、突如としてアレグロ・モルト、イ短調に転じ、冒頭の副主題に基づいた急速なコーダによって劇的に閉じられます。

主な録音

独奏: ジョン・オグドン、アカデミー室内管弦楽団、指揮: ネヴィル・マリナー（1969年録音、この作品の世界初録音とされる）
独奏: シプリアン・カツァリス、フランツ・リスト室内管弦楽団、指揮: ヤーノシュ・ローラ（1984年録音）
* 独奏: アンドレアス・シュタイアー、コンチェルト・ケルン（1996年録音、フォルテピアノとピリオド楽器による世界初録音）

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