ピアノソナタ (バルトーク)

バルトーク：ピアノ・ソナタ Sz.80

バルトーク・ベーラが1926年に作曲したピアノ・ソナタ Sz.80は、初期の習作を除けば、彼が生涯に書いた唯一のピアノ・ソナタとして知られています。演奏時間は約15分で、この作品は作曲家自身のピアノ・レパートリーにおいても重要な位置を占めています。

作曲背景

作品は1926年の6月に完成しました。この年の夏、バルトークは家族を避暑地へ送り出した後、自身はブダペストに留まり、集中的な作曲活動に取り組みました。翌年に予定されていた自身の演奏会で披露するためのピアノ協奏曲第1番の作曲が主な目的だったと考えられていますが、この時期には20種類を超える断片的なアイディアのスケッチが残されており、それらを基にこのソナタのほか、組曲『戸外にて』や『9つのピアノ小品』といったピアノ作品が生み出されました。これらの作品は同時期に構想されたため、互いに影響を与え合っています。例えば、ピアノ協奏曲第1番とこのソナタは主調を同じくしています。また、バルトーク研究で知られる音楽学者ラズロー・ショムファイは、ソナタ終楽章の草稿を詳細に分析した結果、組曲『戸外にて』の第3曲「ミュゼット」が、ソナタ終楽章の完成直前に削除された部分から再構成されて生まれたと結論付けています。

バルトーク自身、フランツ・リストの流れを汲む優れたピアニストでした。このソナタは彼自身の演奏会のために作曲された側面も持ち、また、バルトークのピアノ作品の中では小品が多い中で、数少ない大規模な構造を持つ作品の一つでもあります。

音楽的特徴

このソナタには、バルトーク自身が認めているように、当時の新古典主義の潮流が影響を与えています。形式的には、ウィーン古典派が確立した伝統的なソナタ形式を踏まえ、標準的な3楽章構成を採用しています。しかし、その内容は革新的です。長音階や短音階に加え、全音音階や五音音階といった多様な音階が用いられ、半音階的な和声によって調性が曖昧な響きが生み出されています。また、バルトークが追求したバロック音楽のような構造の明快さと、この時期の彼の作品に顕著に見られるピアノの打楽器的な扱い、そして重厚な和音の塊（クラスター）が特徴です。バルトーク自身が演奏することを想定して書かれたピアノ協奏曲第1番や第2番と同様に、このソナタも演奏には高度な技術が求められます。

楽章構成

伝統的な3楽章構成をとっています。

第1楽章：Allegro moderato
ホ調（ただし、バルトーク自身が「ホ長調」と述べたこともあるものの、厳密には長調とも短調とも断言できない曖昧な調性です）。形式はソナタ形式。リズミカルで活気に満ちた第1主題、やや穏やかな第2主題、舞曲風の第3主題という、3つの主題が登場します。展開部は比較的簡潔にまとめられており、その後の再現部は提示部に比べて短縮されています。

第2楽章：Sostenuto e pesante
ハ（短）調。三部形式。まるで葬送音楽のような、重々しく遅い楽章です。特徴的な鐘のような響きが印象に残ります。この楽章は、同時代に書かれたピアノ協奏曲第1番の第2楽章との関連性や共通性を感じさせます。

第3楽章：Allegro molto
ホ調。形式はロンド形式を基盤としながらも、変奏曲的な要素を併せ持っています。バルトークは自作の終楽章に民俗舞曲風の主題を用いることが多くありましたが、このソナタも例外ではなく、舞曲的な主題を基本に置いています。この主題は、時には大きく変奏されたり、また原型に近い形で現れたりしながら繰り返し登場し、終曲にふさわしい疾走感をもってクライマックスへと向かいます。前述のショムファイは、このような主題の変容がバルトークの民族音楽研究に学んだものであることを指摘し、この楽章を「単一主題的なロンド」と称しています。

初演

初演は1926年12月8日、ブダペストにて、バルトーク自身のピアノ演奏によって行われました。

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参考文献・資料

伊東信宏『バルトーク 民謡を「発見」した辺境の作曲家』中公新書、1997年
* 国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）

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