ピアノソナタ第1番 (ショスタコーヴィチ)

ピアノソナタ第1番 作品12

ドミートリイ・ショスタコーヴィチのピアノソナタ第1番 作品12は、作曲家が20歳を迎える1926年に完成された、このジャンルにおける彼の最初の作品です。同時期には、実験作『10の格言集』や交響曲第2番、そして表現主義的なオペラ『鼻』など、意欲的な作品が次々と生み出されており、本作もまた、ショスタコーヴィチが西欧の新しい音楽語法やモダニズムに強い関心を持ち、アカデミズムからの脱却を図っていた時期の前衛的な探求の成果といえます。

作曲の背景と初演

レニングラード音楽院でピアノと作曲の両方を学び、1925年に作曲科を卒業したショスタコーヴィチは、同年秋から大学院で研鑽を積んでいました。実質的なデビュー作である交響曲第1番のオーケストラ版初演が1926年5月に行われた後、彼はこのピアノソナタの作曲に着手します。夏には演奏旅行や休暇を挟みつつ、作曲を進め、同時代の音楽理論家であるボレスラフ・ヤヴォルスキーへの手紙の中で、「とてもいい気分だ。ピアノ・ソナタの大部分を作曲し終えたところなんだ」と進捗を報告しています。この頃、彼はシェーンベルク、バルトーク、ヒンデミット、クレーネクといった西欧の作曲家を独自に研究し、その影響を強く受けていました。自身も「技巧的」で「正しい」スタイルから解放されたと感じており、本作はその情熱的な現代音楽への傾倒を示すものとなりました。作品は1926年10月20日に完成。完成当日に音楽院の仲間の前で披露した際には、熱のこもった演奏で鍵盤に血が散ったという逸話も残っています。

公式な初演は、同年12月2日、レニングラード・フィルハーモニー小ホールで開催されたレニングラード現代音楽協会（LASM）のコンサートにて、ショスタコーヴィチ自身のピアノによって行われました。その後、レニングラードとモスクワでも再演されており、作曲家自らが演奏することで、その革新的なスタイルを聴衆に伝えています。楽譜は1927年に出版され、自筆譜はロシア国立文学芸術アカデミーに保管されています。なお、作品に「10月」という副題が付されることがありますが、ショスタコーヴィチ自身はこの副題を否定しています。

同時代の音楽状況と評価

本作が生まれた1920年代のソ連は、ロシア・アヴァンギャルドが隆盛を極めた時期にあたります。1921年に導入されたネップ（新経済政策）により、文化的な実験や海外との交流にも一時的な余地が生まれました。映画のエイゼンシュテイン、美術のマレーヴィチ、演劇のメイエルホリド、詩人のマヤコフスキーといった芸術家たちが活躍する中で、音楽界でも様々な革新的な試みがなされていました。汽笛やサイレンを用いたアヴラーモフ、独自の音階理論を提唱したロスラヴェッツ、構成主義のモソロフなどが挙げられます。ショスタコーヴィチのピアノソナタ第1番は、まさにこうした同時代的な前衛芸術の潮流の中に位置づけられる作品であり、翌年にはモソロフの交響的断章『鉄工場』やショスタコーヴィチ自身の交響曲第2番が同じコンサートで初演されるなど、活発な実験が繰り広げられていた時代の息吹を反映しています。

初演直後の評価は分かれました。彼のピアノの師であったレオニード・ニコライエフは、「これはピアノソナタか？ いや、ピアノ伴奏のためのメトロノームソナタだ」と批判的でしたが、一方であこがれの存在であったセルゲイ・プロコフィエフは、1927年2月に演奏を聴き、「生き生きとして面白い」「大胆に演奏する」と高く評価しました。実際、本作にはプロコフィエフのピアノソナタ第3番からの影響も指摘されています。

演奏上の難易度と録音

本作は、ショスタコーヴィチのピアノ作品の中でも特に演奏が難しいものの一つとされています。音楽学者のソフィア・モシェヴィッチは、完璧なテクニックに加え、十分な知力と体力を兼ね備えた熟達したヴィルトゥオーゾでなければ成功させられないと述べています。また、マルコム・マクドナルドは「原始的であると同時に高度に洗練されており、執拗なまでに反ロマンティックであると同時に、ヴィルトゥオーゾ奏者に次から次へと試練を与える究極の試練でもある」と評しています。

そのため、録音も主に実力派のピアニストによって行われています。最も古い録音の一つは、1968年のソ連のピアニスト、ヴェデルニコフによるものです。その後も、プレシャーコフ、マッジ、ポストニコワ、クードレイといったピアニストが録音を出し、1980年代後半から1990年代にかけてジルベルシュテイン、ヴォルコフ、ヴァイヒェルト、バルバロワ、上原彩子ら多くの名手が続々とこの難曲に挑戦しています。2000年代以降も、シチェルバコフ、バビンスキー、ペトルシャンスキー、チェンなどが録音を発表しており、近年ではアヴデーエワなども取り上げています。このように、本作はその演奏上の要求の高さから、多くのヴィルトゥオーゾたちの挑戦意欲を掻き立て続けています。

楽曲構成と特徴

このソナタは、約13分間の単一楽章で構成されており、全体を通してノンストップで演奏されます。鋭くメカニックな響きと、当時の現代的な技法が特徴です。

冒頭の序奏は、力強く大胆な無調の2声主題で始まります。この主題は、上行と下行の要素を含み、楽曲全体の旋律的・和声的な核をなしています。この部分はトッカータ風の爆発力を持ちますが、推進力の源はテンポよりもむしろリズミックなエネルギーにあります。後の主題にも、オクタトニック・スケール（リムスキー-コルサコフ音階として知られる）といった特徴的な音組織が現れ、重要な役割を果たします。

第2主題は演劇的な華やかさを持って登場し、急速な下降音階や特徴的な4度の跳躍に続いて、「ロバの行進」と形容される旋律が現れ、意図的な不条理さを醸し出します。続く終結主題は一転して不気味な性格を持ち、pp（ピアニッシモ）で4声体のテクスチュアを伴います。うねるような半音階的な動きや平行する声部、そして幽霊のようなスタッカートの行進などが特徴です。

展開部では、低音のトリルやクラスター、第1主題の模倣などが組み合わされ、複雑な対位法的な綾を織りなします。主に嬰ヘ長調と短調を基調とし、スケルツォ的な激しい部分や、オーケストラの金管楽器を思わせるような響きが現れます。中間のアダージョの部分は終止主題の要素に基づき、ショスタコーヴィチの大胆なペダル指示によって独特の響きが生まれます。続くレントの部分は、奇妙でありながら催眠術的な美しさを持つノクターン風のエピソードです。高音域の旋律と低音域の対位線、そして不協和音の和音がペダルによって混ざり合い、エキゾチックなソノリティを形成します。

再現部は、エネルギーとテクスチュアの密度を増しながら展開し、終結部へと向かいます。最後の部分は、ロマン派の作品に見られるような勝利的なコーダを思わせつつも、ショスタコーヴィチらしい対位法的な筆致が光る、このソナタで最も明るいクライマックスとなります。第1主題の要素がオクターヴで力強く奏され、第2主題の旋律がトランペットのように響きます。しかし、最後のマルテラートや竜巻のようなコデッタの後、連打される嬰ハ音は、あたかもハ長調での解決を妨害するかのように響き、楽曲は調性的・無調性的な葛藤を抱えたまま幕を閉じます。

ピアノソナタ第1番は、若きショスタコーヴィチの実験精神と圧倒的な技術が凝縮された、初期の代表作の一つと言えるでしょう。

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