ピアノソナタ第9番 (シューベルト)

フランツ・シューベルトが1817年に手掛けたピアノソナタ第9番ロ長調 作品147（D 575）は、彼の初期の円熟期を示す重要な作品の一つです。このソナタは、シューベルトの死後、1846年にアントン・ディアベリによって初めて世に出され、出版に際してピアニストのジギスモント・タールベルクに献呈されました。なお、マルティーノ・ティリモが校訂したウィーン原典版など、楽譜によっては第10番として分類されることもあります。

本作は全4楽章で構成されており、演奏時間は概ね24分程度です。特筆すべきはその構造で、全ての楽章がソナタ形式で書かれているという、シューベルトのピアノソナタとしては非常に珍しい特徴を持っています。また、選ばれることの少ない調性を採用したり、通常は複合三部形式などが用いられる緩徐楽章にもソナタ形式を適用するなど、従来の枠に囚われない作曲家の革新的な試みや創意が随所に見て取れます。

楽章構成

第1楽章：Allegro ma non troppo

ロ長調、4分の4拍子で書かれています。力強いユニゾンの主題が印象的な冒頭で始まります。これに対し、第2主題は左手の3連符を伴奏とし、右手に現れる調性的に不安定な旋律が特徴的です。展開部では調号の変化を伴う大胆な転調が多用され、この楽章に複雑な色彩を与えています。ソナタ形式としては比較的小規模で、通常のコーダを持たずに終わる簡潔な締めくくり方も独特です。

第2楽章：Andante

ホ長調、4分の3拍子。付点リズムが特徴的な歌謡風の主題が提示されます。この主題は、中声部に細かい装飾や変奏を伴いながら繰り返され、楽章全体に抒情的な雰囲気を醸し出しています。ソナタ形式に基づきながらも、その歌謡的な性質が際立っており、中間部では突如として情熱的な表現が噴出するなど、ドラマチックな展開も見られます。

第3楽章：Scherzo: Allegretto - Trio

スケルツォ主部はト長調、トリオはニ長調で、4分の3拍子です。スケルツォの主題は、ここでもユニゾンで提示され、力強い印象を与えます。ソナタ形式が用いられているため、一般的なスケルツォ楽章とは異なり、提示部、展開部、再現部という構造を持っています。中間的な性格を持つ楽章でありながらも、形式的な厳密さが保たれています。

第4楽章：Allegro giusto

ロ長調、8分の3拍子で書かれた終楽章です。明朗で生き生きとした主題が特徴的で、全体的に明るい雰囲気に満ちています。転調が巧みに用いられており、楽章に多様な表情を与えています。特に、2対1のリズムパターンが全曲を通じて支配的に使用されており、これが楽章全体の推進力となっています。軽快さと形式的な面白さが組み合わさった、魅力的なフィナーレです。

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