ピアノ三重奏曲第2番 (メンデルスゾーン)

メンデルスゾーン：ピアノ三重奏曲第2番 ハ短調 作品66

フェリックス・メンデルスゾーンによって作曲された2番目のピアノ三重奏曲です。作品番号は66。ヴァイオリニストであり作曲家としても知られるルイ・シュポーアに献呈されました。

楽曲の背景

メンデルスゾーンが生涯で手がけた室内楽曲の中でも、このピアノ三重奏曲第2番は特に後期の充実ぶりを示す作品の一つです。彼の室内楽は、弦楽四重奏曲が数多く書かれており、全体としてモーツァルトよりもルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの影響が強く感じられる作風が特徴として挙げられます。

本作は、ロベルト・シューマンが「ベートーヴェン以来、最も偉大なピアノ三重奏曲」と絶賛した第1番の完成から約6年後の、メンデルスゾーンの最晩年にあたる1845年頃に完成されたと考えられています。作曲の大部分はライプツィヒで行われたと推測されていますが、詳細な作曲場所については特定されていません。円熟期を迎えた作曲家の手腕が光る作品と言えるでしょう。

楽曲構成

このピアノ三重奏曲は、以下の4つの楽章で構成されています。全曲を通しての演奏時間は約31分です。

1. 第1楽章：アレグロ・エネルジコ・エ・コン・フォーコ (Allegro energico e con fuoco)
ハ短調、4分の4拍子。ソナタ形式で書かれています。「力強く、情熱をもって」という指示通り、冒頭からエネルギッシュに展開します。内向的で重厚な雰囲気を持つ第1主題と、対照的に明るく解放感のある第2主題が提示され、スリリングな展開部を経て再現されます。

2. 第2楽章：アンダンテ・エスプレッシーヴォ (Andante espressivo)
変ホ長調、8分の9拍子。優美な三部形式による緩徐楽章です。「表情豊かに、歩く速さで」と指定されたこの楽章は、情熱的な抒情を湛えた旋律が歌われ、聴く者の心を惹きつけます。

3. 第3楽章：スケルツォ：モルト・アレグロ・クワジ・プレスト (Scherzo: Molto allegro quasi presto)
ト短調、4分の2拍子。三部形式のスケルツォ楽章です。「非常に速く、ほとんどプレストの速さで」という指示からも分かるように、演奏者に高度な技巧を要求する、軽やかで急速な音楽が繰り広げられます。中間部はト長調に転じ、一時的な安らぎをもたらします。

4. 第4楽章：アレグロ・アパッショナート (Allegro appassionato)
ハ短調からハ長調へ。8分の6拍子。自由なソナタ形式が採用されています。終楽章にふさわしい情熱と勢いに満ちた音楽が展開されます。特に注目すべきは展開部で、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのコラール『汝の御座の前に』（Vor deinen Thron tret’ ich hiermit, BWV 668a）が引用され、これが楽曲全体のクライマックスを築き上げます。この終楽章の着想は、後にヨハネス・ブラームスが20歳で作曲したピアノ・ソナタ第3番 作品5の第3楽章スケルツォに影響を与えたと言われています。

まとめ

メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第2番は、第1番と並んで彼の室内楽における重要な位置を占める作品です。最晩年の円熟した技法と豊かな楽想が融合し、各楽章に明確な個性を持ちながらも、全体として統一感のある構成美を示しています。特にバッハのコラール引用というユニークな手法を用いた終楽章は、メンデルスゾーンの古典派への深い敬愛と革新的な試みを示しており、後世の作曲家にも影響を与えた点でも特筆すべき楽曲です。

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