ピアノ協奏曲 (コープランド)

アーロン・コープランド：ピアノ協奏曲

アメリカを代表する作曲家、アーロン・コープランドが1926年に作曲したピアノ協奏曲は、彼の創作活動の初期における重要な作品群の一つとして位置づけられます。

創作の背景

コープランドは1920年から1925年にかけて、パリで著名な音楽教師ナディア・ブーランジェのもとで作曲を深く学びました。このパリでの経験は、その後の彼の音楽スタイルに大きな影響を与えています。帰国後、彼は精力的に作曲活動を展開し、オルガンと管弦楽のための交響曲（後に交響曲第1番に改作）や、室内オーケストラのための組曲『劇場のための音楽』といった作品を次々と発表しました。このピアノ協奏曲もまた、こうした初期の意欲的な作品群と同時期に生み出されたものです。

作品の特質

本作の最も顕著な特徴は、ジャズの手法を大胆に作品に取り入れている点にあります。当時のクラシック音楽においてはまだ珍しかったジャズのリズムや語法を積極的に導入したことで、この作品は非常に個性的で現代的な響きを持っています。コープランドが生涯に作曲した協奏曲は、このピアノ協奏曲と、それから約20年後に書かれたクラリネット協奏曲の二つだけですが、どちらの作品にもジャズの要素が取り入れられていることは特筆すべき共通点と言えるでしょう。

初演とその反響

このピアノ協奏曲の初演は、作曲翌年の1927年1月28日に行われました。演奏は作曲者自身のピアノ独奏に、セルゲイ・クーセヴィツキー指揮のボストン交響楽団という、当時のアメリカを代表する豪華な布陣によって担われました。しかし、その斬新な音楽スタイル、特にジャズの要素に対する聴衆や批評家の反応は様々で、初演時には多くの批判を浴び、物議を醸しました。しかし、時代が下るにつれてこの作品の革新性や意欲的な試みが再評価されるようになり、今日では20世紀アメリカ音楽における重要な作品の一つとして認識されています。

楽器編成

この協奏曲のためにコープランドが指定した楽器編成は、独奏ピアノに加えてかなり規模の大きなものです。

独奏ピアノ
管楽器：ピッコロ、フルート2、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、E♭管クラリネット、バス・クラリネット、アルト・サクソフォーン（ソプラノ・サクソフォーン持ち替え）、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ
打楽器：ティンパニ、バス・ドラム、シンバル、ゴング、スネア・ドラム、チャイニーズ・ウッド・ブロック、ウッド・ブロック、トライアングル、チェレスタ、シロフォン
弦楽器：弦五部

多彩な管楽器や豊富な打楽器が用いられており、特にサクソフォーンやジャズで使われるような打楽器の導入は、作品のジャズ的な性格を際立たせています。

楽曲構成

この協奏曲は、演奏上の切れ目なく連続して演奏される2つの楽章から構成されています。ただし、第2楽章はさらに内部で二つの部分に分かれています。スコアに記載されている演奏時間は約18分です。

1. Andante sostenuto（アンダンテ・ソステヌート）
2. Molto moderato — Allegro assai（モルト・モデラート ― アレグロ・アッサイ）

緩やかな導入部から始まり、ジャズのリズムや躍動感あふれる主部へと展開していく構成となっています。

このピアノ協奏曲は、初期コープランドの探求心と、アメリカ音楽に新たな息吹を吹き込もうとする彼の姿勢を示す貴重な作品と言えるでしょう。

（参考文献：最新名曲解説全集 補巻第1巻（音楽之友社）より情報を参照し記述しています。）

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