ピアノ協奏曲 (スクリャービン)

アレクサンドル・スクリャービン：ピアノ協奏曲嬰ヘ短調 作品20

アレクサンドル・スクリャービンが1896年から1897年にかけて作曲したピアノ協奏曲嬰ヘ短調 作品20は、彼の初期の作品の一つであり、ピアノと管弦楽のための作品としては『プロメテウス―火の詩』と並ぶ重要な作品です。演奏時間は約26分。

概要

この協奏曲は、スクリャービンの初期作品であり、特に抒情的な表現において、ショパンの影響が色濃く見られます。しかし、リズム語法や調性の選択、左手の超絶技巧、簡潔で緊密な楽曲構成、そして翳りと愁いを帯びた独特の表情は、ショパンとは異なるスクリャービン独自の音楽的個性を明らかに示しています。スクリャービンの助言者であったリムスキー＝コルサコフは、この作品の管弦楽法のバランスに難色を示し、自ら改訂を申し出ましたが、スクリャービンはこれを拒否し、自力で部分的な修正にとどめました。スクリャービンはヨーロッパから帰国後の1910年に、この曲を11回演奏会で取り上げています。しかし、独自の音楽語法を確立する前の初期の作品であるため、オーケストレーションの弱さやピアノパートの高度な技巧が求められることから、演奏機会は多くありません。

楽器編成

独奏ピアノ、フルート2、オーボエ2、クラリネット（A管）2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽五部。

楽曲構成

第1楽章 Allegro 3/4拍子 嬰ヘ短調

序奏付きのソナタ形式で構成されています。伝統的な協奏的ソナタ形式とは異なり、オーケストラの短い導入部の後、すぐにピアノが登場します。抒情的で情熱的な第1主題と、マズルカ風の第2主題が特徴的です。オーケストラはオクターブのユニゾンなど、比較的薄い書法でピアノに寄り添うように展開します。コーダではクライマックスを迎え、悲劇的に終結します。

第2楽章 Andante 4/4拍子 嬰ヘ長調

スクリャービンが生前に発表した唯一の変奏曲です（他に1887年作曲の『エゴロワ変奏曲』が死後遺作として出版されています）。変位記号の多い調号の選択は、スクリャービンの初期から中期にかけての音楽的特徴の一つです。単純な三部形式による主題は、彼が12歳ごろに作曲したものであり、その性格は素朴で甘美です。続く4つの変奏は、ブラームスやセルゲイ・ラフマニノフが好んだ性格変奏ではなく、古典的な装飾変奏の形式を採用しています。事実上の第5変奏に当たるコーダで、静かに締めくくられます。

第3楽章 Allegro moderato 3/4拍子 嬰ヘ短調～嬰ヘ長調

ロンドソナタ形式で構成されています。ポロネーズ風の勇壮な第1主題と、抒情的で歌謡的な第2主題が対比的に用いられています。ピアノパートには複雑なアルペジオやポリリズムが多用され、高度な技術が求められます。コーダでは嬰ヘ長調に転調し、華々しいクライマックスを形成して終結します。

録音

ウラディーミル・アシュケナージ、スティーヴン・ハフ、ミハイル・プレトニョフ、エフゲニー・キーシン、マキシム・ムドヴィッチ、マルカンドレ・アムラン、ボリス・ベレゾフスキー、ニコライ・ルガンスキー、などのピアニストが録音を残しており、中でもウラディーミル・アシュケナージの演奏は広く知られています。また、スクリャービン自身による演奏も録音されており、貴重な資料となっています。

外部リンク

ピアノ協奏曲作品20の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
Pianopedia, Alexander Scriabin, Piano Concerto in F-sharp minor

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