ピアノ協奏曲第1番 (カバレフスキー)

ドミトリー・カバレフスキーが若き日に生み出した「ピアノ協奏曲第1番 イ短調 作品9」は、彼の創作活動における初期の重要な成果として位置づけられています。この作品は、作曲家がモスクワ音楽院に在籍していた1928年に作曲されました。

作品の背景と歴史

この協奏曲は、カバレフスキーのキャリアにおいて特別な意味合いを持ちます。モスクワ音楽院を卒業した後の1931年12月11日、モスクワにて作曲者自身の独奏ピアノ、そしてボリショイ劇場管弦楽団の演奏という理想的な布陣で初演を迎えました。翌1932年には国営出版社ムジカから楽譜が出版されると、この作品は瞬く間に国内外に紹介されることとなります。その成功は、まだ新進気鋭であったカバレフスキーの名を広く知らしめる決定的な契機となりました。

音楽的な特徴

「ピアノ協奏曲第1番」は、カバレフスキーの後期の作品と比較すると、よりロマンティックで華やかなヴィルトゥオーゾ的書法が顕著に見られます。その音楽語法には、ピョートル・チャイコフスキーやニコライ・リムスキー＝コルサコフといったロシア音楽の偉大な先達、さらには同時代に活躍したセルゲイ・ラフマニノフ、セルゲイ・プロコフィエフ、そしてフランスの作曲家モーリス・ラヴェルといった巨匠たちの影響が指摘されています。

音楽評論家ニコラス・スロニムスキーは、この作品を「叙情的でありながらも英雄的な表現（lyrico-heroic manner）」を持つと評しています。また、「楽天的な響きの中で、活気に満ちたエネルギーが繰り返し湧き上がり、抑制された控えめな不協和音が音楽に新鮮な生気を与えている」とその魅力を表現しています。作品全体から感じられる若々しい情熱と力強さは、聴き手を惹きつけます。

楽器編成

この協奏曲は、独奏ピアノと以下の標準的な二管編成のオーケストラのために書かれています。

独奏ピアノ
フルート 2
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2
ホルン 4
トランペット 2
トロンボーン 3
チューバ 1
打楽器 (ティンパニ、シンバル、大太鼓など)
* 弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

演奏時間

標準的な演奏時間は約30分です。

楽曲構成

全3楽章構成となっており、それぞれが対照的な性格を持っています。

第1楽章 Moderato quasi andantino

ソナタ形式で書かれています。楽章の冒頭では、木管楽器の独奏による悲しげな第1主題が登場し、やがて独奏ピアノへと引き継がれます。これに対し、ピアノと弦楽器によって提示される第2主題は、より動きがあり対照的です。展開部は暗い雰囲気に始まり、次第に盛り上がりを見せ、力強い主要主題の再現部へと導かれます。

第2楽章 Moderato - Allegro assai

変奏曲形式が採用されています。楽章の核となる素朴な主題は木管楽器によって提示されます。この主題に基づき、多様な性格を持つ5つの変奏が展開されます。変奏の後に、冒頭の主題が再び姿を現し、楽章を締めくくります。

第3楽章 Vivace marcato

ロンド・ソナタ形式によるフィナーレです。短い木管楽器による導入に続いて、独奏ピアノが力強く推進力のある主要主題を提示します。楽章の中間には短いカデンツァが置かれており、その後に二つの主要な主題を用いた展開部が始まります。再現部では、これまでの要素がより一層鮮烈さを増して提示され、華々しく楽曲を閉じます。

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