ピアノ協奏曲第3番 (サン＝サーンス)

ピアノ協奏曲第3番 変ホ長調 作品29

カミーユ・サン＝サーンスの手によるピアノ協奏曲第3番 変ホ長調 作品29は、彼の数ある協奏曲の中でも特に興味深い位置を占める作品です。第2番のピアノ協奏曲が初演された翌年である1869年に作曲・完成され、同年には早くもライプツィヒのゲヴァントハウスで初演が行われました。この記念すべき初演では、サン＝サーンス自身がピアノ独奏を務め、カール・ライネッケがオーケストラの指揮を担当しました。

この作品の初演時にまつわる有名なエピソードとして、第2楽章の冒頭で用いられた大胆な和声が聴衆の間に混乱と口論を引き起こしたという逸話が伝えられています。サン＝サーンスは一般的に保守的な作曲家と評されることが多いですが、この出来事は彼が時に既成概念に囚われない革新的な試みを行っていた一面を示唆しています。にもかかわらず、この作品は初演当時から必ずしも高い評価を得られず、その後の演奏機会も同時代の他の作品、例えば第2番や第5番などに比べて限られています。ガブリエル・フォーレやアレクサンドル・グラズノフといった一部の音楽家は本作を高く評価していましたが、現在に至るまでサン＝サーンスのピアノ協奏曲の中では第1番と並び、演奏される機会が少ない作品となっています。

作品は1875年に出版され、これは第1番の協奏曲と同じ年になります。献呈はピアニストのエリー＝ミリアム・デラボルデに対して行われました。

使用楽器

この協奏曲は以下の楽器編成で演奏されます。

独奏ピアノ
フルート 2
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2
ホルン 2
トランペット 2
トロンボーン 3
ティンパニ
弦五部

楽曲の構成

この作品は3つの楽章から構成されており、全体の演奏時間はおよそ30分です。

第1楽章 Moderato assai - Piu mosso

変ホ長調、4分の4拍子。導入部を伴うソナタ形式で書かれています。静かに波打つようなピアノの分散和音に乗って、オーケストラが第1主題を提示します。この主題の動機は繰り返されながら次第に高揚し、主部へと移行します。主部では、ピアノが力強く第1主題を奏でます。第2主題はテンポをModerato assaiに戻し、ニ長調で穏やかな雰囲気で提示されます。カデンツァは展開部の開始と終了という、やや変則的な配置に置かれています。再現部では、主要な主題が簡潔にまとめられ、その後、第1主題に基づく短いコーダによって力強く楽章が閉じられます。

なお、この楽章は1913年にサン＝サーンス自身によって、パリ国立高等音楽院の試験課題としてピアノ独奏版に編曲されています。これは音楽院側からの演奏時間指定に応じたもので、オリジナル版から構成や音形に変更が加えられています。ヴァイオリン協奏曲第3番の第3楽章も同時期に同様の理由で編曲されています。

第2楽章 Andante

ホ長調、3分の4拍子。三部形式。前述の通り、初演時には聴衆を驚かせた斬新な和声感覚が特徴です。音楽的には、両端の楽章をつなぐ間奏曲としての性格が強い楽章と言えます。コーダでは中間部の旋律が回想され、そのまま切れ目なく（アタッカで）次の終楽章へ移行します。

第3楽章 Allegro non troppo

変ホ長調、2分の4拍子。華やかさとユーモアが融合した楽章で、通常のソナタ形式とは異なり展開部を持たない形式構造となっています。その代わり、第1主題の再現部分に展開的な要素が組み込まれています。終始、高度な技巧を要求されるピアノ独奏が際立ちます。短い序奏で主題の断片が示唆された後、エネルギッシュなピアノによる躍動的な第1主題が登場します。途中で現れる副次的な旋律は、再現部において大きく展開されます。第2主題は比較的定型的な形で再現され、その後、長めのコーダが続き、華やかに全曲が締めくくられます。

この作品は、サン＝サーンスの創作活動における多様性と、時に見せる実験的な側面を知る上で重要なピースと言えるでしょう。評価こそ定まっていませんが、聴きどころの多い魅力的な協奏曲です。

参考文献・外部リンク

Ratner, Sabina Teller (2002) Camille Saint-Saëns 1835-1921: The instrumental works Oxford University Press
Piano Concerto No.3 in E-flat major Op.29の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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