ピアノ協奏曲第6番 (モーツァルト)

モーツァルト：ピアノ協奏曲第6番 変ロ長調 K. 238

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの鍵盤楽器と管弦楽のための協奏曲として、ピアノ協奏曲第6番 変ロ長調 K. 238は、1776年に故郷ザルツブルクで生み出されました。作品は、同時期に作曲された第7番（3台のピアノのための協奏曲 K. 242）や第8番（『リュッツォウ』K. 246）とほぼ同じ頃、前作である第5番（K. 175）から約2年の時を経て、1776年1月に完成されました。

特筆すべきは、同時期の他の協奏曲が主にアマチュア向けであったのに対し、この第6番では高度な演奏技巧が求められる点です。このことから、作曲当時20歳であったモーツァルト自身が、ザルツブルクの宮廷やサロンで開催される伝統的な謝肉祭や四旬節の演奏会において、自身の卓越した鍵盤楽器の腕前を披露するために書かれた可能性が高いと推測されています。また、弟に劣らぬ技巧を持っていた姉のナンネルも、ザルツブルクの社交の場で本作を含むモーツァルトの協奏曲を演奏した記録があります。

作品は作曲後、モーツァルトによって演奏旅行に持ち出されました。1777年には、アウクスブルクとマンハイムでの演奏会で彼自身の手によって披露されています。第1楽章と第2楽章のためのカデンツァ、そして第3楽章のアインガング（導入部）は、モーツァルト自身が作曲したと見られています。これらの部分は、父レオポルト・モーツァルトによる手稿譜によって現在に伝えられています。興味深いことに、この協奏曲はモーツァルトの存命中には出版されませんでした。その楽譜が世に出たのは、彼の死の翌年になってからのことです。

なお、現代の著名なピアニストであるアンジェラ・ヒューイット氏は、本作の初演は現代のピアノ（フォルテピアノ）ではなく、チェンバロが用いられた可能性を指摘しています。

楽器編成

この協奏曲の楽器編成は以下の通りです。

独奏ピアノ
フルート2本（第2楽章のみ）
オーボエ2本（第1楽章、第3楽章）
ホルン2本
* 弦五部（ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽曲構成

この作品は、3つの楽章で構成されており、全曲の演奏時間は約20分程度です。音楽的な特徴としては、ピアノパートが要求する技術レベルが高い一方で、作品全体は軽やかで明るい雰囲気に満ちており、当時の流行であったギャラント様式の影響が強く見られます。また、本来の管弦楽伴奏の他に、弦楽四重奏のみによる伴奏でも演奏が可能とされています。

各楽章の構成は以下の通りです。

1. 第1楽章：アレグロ・アペルト
変ロ長調、4分の4拍子によるソナタ形式です。
2. 第2楽章：アンダンテ・ウン・ポコ・アダージョ
変ホ長調、4分の3拍子で書かれており、展開部を欠くソナタ形式が採用されています。
3. 第3楽章：ロンドー：アレグロ
変ロ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）によるロンド形式の楽章です。

この協奏曲は、モーツァルトの初期の作品群の中でも、演奏技術的に充実しており、その後の協奏曲の発展を予感させる重要な位置を占めています。

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