ピアノ四重奏曲第1番 (メンデルスゾーン)

フェリックス・メンデルスゾーンが1822年に手がけた《ピアノ四重奏曲第1番 ハ短調 作品1》は、彼がわずか13歳の時に作曲された、初期における重要な作品です。この才能豊かな若者は、幼い頃からいくつかのピアノ四重奏曲を作曲しており、本作は未出版に終わったニ短調の作品に続いて書かれ、見事出版が実現し、記念すべき作品番号1を与えられました。続く作品番号2、作品番号3も同様にピアノ四重奏曲が並びます。この作品は、当時のポーランド王国の政治家であり音楽愛好家でもあったアントニ・ラジヴィウ公に献呈されました。楽想には、同時代の巨匠であるモーツァルトやウェーバーからの影響が随所にうかがえます。

この四重奏曲は全4楽章で構成されており、全体の演奏時間は概ね28分程度です。

第1楽章

冒頭の楽章は「Allegro vivace」と指示され、ハ短調、4/4拍子で始まります。この楽章では、弦楽器よりもピアノに重きを置いた書法が特徴的です。透明感あふれる響きで開始し、すぐにピアノが中心となって第一主題を展開させていきます。続いて、変ホ長調の明るい第二主題がチェロによって提示され、その後ヴィオラ、ヴァイオリンへと受け継がれていきます。華麗なピアノのフレーズを伴う結尾部分に続き、提示部全体が反復されます。展開部では、提示部の結尾部分の素材が用いられ、さらに第一主題も加わって音楽は進展します。一時停止を促す「ad libitum」の指示があるピアノの自由なパッセージを挟んで再現部へ移行します。再現部では、ハ短調で第一主題が登場し、続いてピアノによってハ長調で第二主題が再現されます。終盤は、ピアノの活躍が際立つコーダを経て、ハ短調による劇的な幕切れを迎えます。

第2楽章

「Adagio」と名付けられた第2楽章は、変イ長調、3/4拍子で書かれており、ここでも音楽の主導権はピアノが握っています。穏やかな雰囲気の中で、弦楽器が静かに主題を導入します。この主題が繰り返された後、ヴァイオリンとピアノが互いに呼応するように音楽が展開されます。再び「ad libit.」と記されたピアノのパッセージが現れた後、主題がヴィオラによって再現され、その後にチェロが新たな旋律を奏で始めます。ピアノがスタッカートを伴うアルペッジョの音型を弾き始めると、これにチェロの新しい旋律が加わり、次第に音楽は盛り上がりを見せます。しかし、再び落ち着きを取り戻し、主題が再現された後、静かに楽章は閉じられます。

第3楽章

スケルツォ楽章は「Scherzo: Presto」と指示され、ハ短調、2/2拍子で、古典的な形式に則って書かれています。冒頭からピアノが活発でせわしない主題を提示します。このスケルツォ部分は二部形式となっており、それぞれの部分が繰り返された後、中間部であるトリオへと移ります。トリオでは、ヴァイオリンが完全に休み、ピアノは左手のみの伴奏に回り、ヴィオラ、チェロ、そしてピアノ左手の3声で音楽が進められます。このトリオの主題はチェロによって歌われます。トリオも前後半の繰り返しが行われ、最後に「スケルツォ・ダ・カーポ」（Scherzo da capo）の指示に従って最初のスケルツォ部分が繰り返され、楽章を終えます。

第4楽章

終楽章は「Allegro moderato」とされ、ハ短調、4/4拍子です。この楽章におけるピアノは、あたかもピアノ協奏曲のソリストのような華々しい役割を担います。楽章全体を通して主要な主題は一つのみで、序奏はなく、ピアノによる主題の提示から直接開始されます。ピアノの技巧的なパッセージを主体とした経過句を経て、最初の主題が変イ長調に姿を変えて再び現れます。再びピアノの目まぐるしいパッセージワークが現れ、華やかな雰囲気のうちに提示部を終え、繰り返しが行われます。展開部は主題を用いて始まりますが、すぐにピアノの華麗な走句に取って代わられ、音楽は終始高い熱量を保ったまま進行します。再現部では、主題がハ短調で、変イ長調に転じた主題がハ長調でそれぞれ再現されます。最後に、劇的なコーダを経て、ハ短調の主和音によって全曲が力強く閉じられます。

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