ピエトロ・リベリ

ピエトロ・リベリ

ピエトロ・リベリ（伊: Pietro Liberi, 1605年 - 1687年10月18日）は、17世紀イタリアのバロック期に活躍した画家です。主に水の都ヴェネツィアとその周辺地域であるヴェネト地方でその才能を発揮しました。

リベリの絵画は、宗教的な主題を多く扱いながらも、しばしば官能的で享楽的な表現を取り入れたことで知られています。この二面性から、彼は「il Libertino」、すなわち「放蕩者」という異名で呼ばれることもありました。その画業は、彼自身の波瀾万丈な生涯と深く結びついています。

生涯

彼の人生は、画家としてのキャリアのみならず、冒険と試練に満ちたものでした。パドヴァで生まれ、パドヴァニーノのもとで絵画の基礎を学んだ後、リベリはイタリア各地を広範囲に旅しました。しかし、その旅は予期せぬ困難に直面します。イスタンブールへ向かう航海の途中、彼はチュニスの海賊に捕らえられ、実に8ヶ月もの間、拘束されるという過酷な経験をしました。

マルタ島を経由してようやく解放されたリベリは、シチリア島、ナポリ、ピサなど、イタリア南部の都市を訪れました。さらに驚くべきことに、彼の生涯の一部は兵士として過ごされました。トスカーナ公国に仕えるカヴァリエール、アントニオ・マンフレディーニ率いる部隊に傭兵として加わり、サラセン人を相手にした戦いに身を投じたのです。現在のトルコにあたるイスケンデルン近郊のシキア城を占領するための戦いにも参加しました。画家が剣を取り戦場を駆けるという、異色の経歴は、彼の多面的で情熱的な人となりを物語っています。

軍務を終えたリベリは、トスカーナのリボルノに戻り、再び絵画制作に集中し始めました。その後も彼の旅は続きます。1637年にはリスボンを訪れ、さらにフランス南部のリグーリア沿岸やスペインのマドリードへも足を延ばしました。

イタリアに戻ると、特にローマでの活動が重要です。彼は彫版師ステファノ・デラ・ベラと共同生活を送り、メディチ家のレオポルド公のために有名な主題『サビニの女たちの略奪』を描きました。フィレンツェでは、神愛オラトリオ会の建物の天井画を手がけています。

1643年にはヴェネツィアに移り、この地で画家としての地位を確固たるものにしました。サンタ・マリア・デイ・デレリッティ教会の福音書記者像、1650年に制作されたサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ聖堂の大祭壇画、そしてサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の『祈りの中でヴェネツィアとともにあるパドヴァの聖アントニウス』など、数々の重要な作品をヴェネツィアに残しています。その功績が認められ、1662年には当時の総督フランチェスコ・モリノによって騎士に叙されました。これは画家にとって大変な栄誉でした。

ヴェネツィア以外でも、リベリは多くの依頼を受けました。ドゥカーレ宮殿には、歴史的な出来事を描いたフレスコ画『ダーダネルスの戦い』を制作しています。オンニッサンティ教会のために『幼児虐殺』、ヴィチェンツァ大聖堂のために『箱舟を去るノア』、ベルガモのサンタ・マリア・マッジョーレ教会には『大洪水』など、各地の教会や公共施設に大作を残しました。彼の作品はイタリア国内に留まらず、遠くエストニアのタリンにあるカドリオルグ宮殿（エストニア美術館の一部）にも収蔵されており、その影響力は国際的でした。

特にサン・モイゼ教会の祭壇画『十字架を発見した聖ヘレナ』は、彼の傑作として高く評価されています。

弟子

リベリは画家として多くの弟子を育て、その中には彼の息子であるマルコ・リベリ（彼も画家となりました）や、ジャンナントニオ・ラザリがいます。彼らは父や師の技を受け継ぎ、その芸術の系譜を繋いでいきました。

まとめ

ピエトロ・リベリの生涯は、芸術への情熱と、まるで物語のような冒険が織り交ぜられたものでした。宗教的な敬虔さと官能的な美しさを大胆に融合させたその画風は、当時のヴェネツィア美術において独自の地位を確立しました。「放蕩者」と呼ばれた異才の画家は、激動の時代を生き抜き、数多くの傑作を通して今なお私たちに語りかけています。

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