福音書記者

福音書記者について

福音書記者とは、キリスト教の『新約聖書』に収められている四つの正典『福音書』の記者を指します。伝統的な見地からは、マルコ、マタイ、ルカ、ヨハネの4名が福音書記者とされています。これらの福音書は、イエス・キリストの生涯、教え、死、そして復活について記されており、キリスト教信仰の根幹をなす重要な文書です。

福音書記者の伝統的理解

キリスト教の伝統では、四福音書はイエスの直弟子である使徒によって書かれたと考えられてきました。マタイとヨハネは十二使徒の一員であり、ルカとマルコは使徒の弟子であるとされています。しかし、近代の新約聖書学では、これらの伝統的な見解が再検討されています。

近代的な解釈

現代の新約聖書学では、福音書は紀元1世紀後半から2世紀初頭にかけて、複数の著者が編集・執筆したと考えられています。特に、マルコ、マタイ、ルカの三つの福音書は、内容の類似性から「共観福音書」と呼ばれ、その背後にはイエスの言葉を集めた『Q資料』と呼ばれる共通の資料が存在したと考えられています。福音書記者たちは、この『Q資料』や他の資料を参照し、それぞれの視点や教義解釈に基づいて福音書を編集したとされています。

福音書記者の象徴

福音書記者は、伝統的に特定の象徴で表現されます。これらの象徴は、『ヨハネの黙示録』や『エゼキエル書』に登場する天使的な存在に由来すると考えられています。西方教会における象徴は以下の通りです。

マルコ: 獅子
マタイ: 人（天使）
ルカ: 雄牛
ヨハネ: 鷲

これらの象徴は、福音書の冒頭の記述や、それぞれの福音書が強調するイエスの側面と関連付けられて解釈されます。例えば、マタイはイエスの人間としての系譜を記しているため「人」で、マルコは洗礼者ヨハネの荒野の獅子のような姿から「獅子」で、ルカは祭司の犠牲の牛を献げる役割から「雄牛」、ヨハネは高みからやってきた言葉（ロゴス）から「鷲」で象徴されます。

カール・ユングの解釈

分析心理学者のカール・ユングは、福音書記者の象徴を人間の心の機能と関連付けて解釈しました。彼は、人間の心には「思考」「感情」「感覚」「直観」の四つの機能があり、そのうち一つが主要な機能として発達するとしました。福音書記者の象徴のうち、人間で表されるマタイは、主要な機能に対応し、他の動物で表される象徴は、未発達な心の機能に対応すると解釈しました。

福音書記者と福音書の多様性

四福音書は、それぞれ異なる視点や教義解釈を持っており、イエス・キリストの生涯や教えについて多角的な理解を与えてくれます。福音書記者たちは、既存の資料を参考にしながらも、独自の解釈や編集を加えることで、それぞれの福音書に独自の特色を与えました。この多様性こそが、キリスト教信仰の豊かな側面を示していると言えるでしょう。

まとめ

福音書記者とは、新約聖書における四つの福音書の著者であり、その象徴や解釈は、キリスト教美術や神学において重要な意味を持っています。伝統的な解釈と近代的な解釈の両方を理解することで、より深く福音書の内容を理解することができるでしょう。

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