ピカドン (丸木位里・俊)

絵本『ピカドン』について

『ピカドン』は、画家である丸木位里と赤松俊子（丸木俊）夫妻が共同で制作した絵本です。1950年8月6日にポツダム書店から初版が刊行されました。この絵本は、夫妻が1945年8月6日の広島原爆投下直後に目撃した惨状を基に制作されました。

制作の背景

丸木夫妻は、原爆投下後、位里の実家の安否を確かめるために広島へ向かい、そこで目にした光景に深く心を痛めました。この体験がきっかけとなり、夫妻は『原爆の図』の制作を開始します。それと同時期に、ポツダム書店の編集部からの依頼を受け、この絵本『ピカドン』の制作も開始されました。絵本の表紙には、「平和を守る会篇」と記されています。

しかし、この絵本には表紙に「平和を守る会」の表示がないものも存在します。裏表紙には「ホツダム書店」と表記されているものがあり、この「ホツダム書店」表記のものが、後に「ポツダム書店」と修正された可能性があります。どちらが先に刊行されたかについては研究が少ないのが現状です。

2023年には、琥珀書房から初版のオリジナル復刻版が刊行され、解説書「『ピカドン』とその時代」との2冊セットで販売されました。

内容

絵本には、広島市郊外の三滝に住む「おばあさん」（位里の母である丸木スマがモデル）とその家族、近所の人々の被爆体験が描かれています。簡素な線描で描かれた絵には、短い詞が添えられています。特に、焼け野原の絵に添えられた「爆心地の話をつたえてくれる人は、いません」という詞や、「「オイツ」と肩をたたいたら、ざらざらと戦友はくづれおちました」という「灰の人」のエピソードは、原爆の悲惨さを強く物語っています。

丸木夫妻の代表作である『原爆の図』が、被爆して傷ついた人間の姿を主に描いているのに対し、『ピカドン』では、原爆に遭遇した人々の日常生活や被爆前後の町や村の様子、さらにはツバメや南瓜といった動植物の様子など、より広い視点から原爆の実相を描いているのが特徴です。

出版後の経緯

この絵本は刊行直後、GHQのプレスコード規制により発禁処分になったと伝えられていますが、詳細は不明です。原画は現在行方不明となっています。当時、朝鮮戦争の開始により左派に対する言論統制が強化されており、『ピカドン』も共産党系と目された「平和を守る会」のパンフレットとみなされた可能性が指摘されています。また、発行元のポツダム書店も、鹿地亘拉致監禁事件との関連で連絡先が不明になりました。

1952年、サンフランシスコ講和条約の発効により占領から解放されると、幻灯『ピカドンー広島原爆物語』が製作されました。この幻灯は、絵本の内容を子どもにも理解しやすいように再編集したもので、全体的にボリュームが縮小されています。

その後、絵本の一部の絵（詞書きを含む）は、大江健三郎の著書『ヒロシマ・ノート』の挿絵として使用されました。また、初版本をもとにした復刻版も複数刊行されています。1982年に東邦出版から刊行された新版『ピカドン』には、上笙一郎による解説「新版『ピカドン』によせて」が収録されており、『ピカドン』刊行時の「発禁処分」問題について詳しく触れられています。

同名の絵本

同タイトルの絵本としては、木下蓮三・小夜子夫妻による『ピカドン』（ダイナミックセラーズ刊）も有名です。この作品は、1978年に制作された手書き短編アニメ『ピカドン』のセル画を基に制作されました。アニメは、原爆が投下された瞬間をテーマにしており、前半ののどかな日常生活から、後半の原爆による地獄のような光景への変化がリアルに描かれています。特に、右手を挙げたまま黒焦げになった子供の亡骸は、実際に存在した被爆者をモデルにしており、観る者に深い衝撃を与えます。

関連書籍

丸木位里・丸木俊『ピカドン』東邦出版、1982年　ISBN 4809400034
小沢節子『「原爆の図」描かれた<記憶>、語られた<絵画> 』岩波書店、2002年 ISBN 4000227254
岡村幸宣『《原爆の図》全国巡回　占領下、100万人が観た！』新宿書房、2015年 ISBN 9784880084589

関連項目

原爆の図
* 木下蓮三

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