鹿地亘

鹿地亘（かじ わたる）

鹿地 亘（かじ わたる、本名：瀬口貢（せぐち みつぎ）、1903年5月1日 - 1982年7月26日）は、大分県出身の小説家です。東京帝国大学国文科を卒業後、大学院博士課程を修了しました。妻は池田辛子。

生涯

マルクス主義者としての活動

東京帝国大学在学中から文学と社会運動に関心を持ち、林房雄や中野重治らと社会文芸研究会を組織しました。この研究会は後にマルクス主義芸術研究会と改名されています。大学外でもプロレタリア文学運動に参加し、1930年には『労働日記と靴』で注目を集めました。当時の文学はプロパガンダとしての側面が強く、その影響を受けていました。1932年には日本共産党に入党しています。

1934年に治安維持法違反で逮捕され、獄中で転向後に出獄しました。1936年には中華民国に渡り、魯迅と親交を深めます。最初は上海に滞在していましたが、1937年の日中開戦を機に香港経由で武漢へ、その後は国民政府と共に重慶へと移動しました。

日本兵捕虜の組織化

1938年12月、鹿地は蔣介石の承認を得て国民党支配地域で「日本人民反戦同盟」を結成しました。この同盟は「日本人の自立した立場」を標榜し、日本人捕虜や居留民に対して「教育」を施し、反戦活動を展開しました。日中戦争中の1938年5月には、鹿地が作成した宣伝ビラが中国軍機によって日本本土に散布されています。

後に延安で始まった野坂参三らの日本人民解放連盟の活動は、形式上は「鹿地の活動の支部」という形を取っていました。しかし、1940年以降、反戦同盟を中国共産党寄りの団体と見なした蔣介石によって弾圧が始まり、鹿地は重慶で情勢分析活動に従事せざるを得なくなりました。

国民党は、日本兵捕虜から情報を収集するだけでなく、中国側の寛大さを示す国際宣伝にも利用していました。収容所では、中国側に媚びへつらう者だけが「反戦分子」として優遇されていたと言われています。鹿地は郭沫若の協力を得て1938年12月に反戦同盟を組織し、1939年12月には中国の抗日戦争が「日本人民の自由解放」と一致するという声明を発表しました。1940年5月には延安支部が建設され、八路軍や新四軍地区における日本人捕虜兵士による反戦運動にも影響を与えました。

帰国と鹿地事件

第二次世界大戦終結後、鹿地は日本に帰国し、民主主義文学運動に参加します。1947年には第1回参議院議員通常選挙に無所属で全国区から立候補しましたが落選しました。

1951年11月25日、肺結核療養中にアメリカ軍諜報機関によって拉致され、アメリカのスパイになるよう強要される「鹿地事件」が発生しました。約1年後の1952年12月に解放され、国会で証人喚問を受けて事件について証言しています。当時、日本は主権を回復していましたが、アメリカの影響力は依然として大きく、政府は事件の真相究明に消極的でした。

さらに、米ソの二重スパイであった三橋正雄が鹿地もスパイの共犯だと供述したことで、鹿地はスパイ疑惑にも巻き込まれます。鹿地はこれを否定しましたが、国会での証人喚問や裁判への出廷を余儀なくされました。最終的に、三橋の電波法違反事件の共犯として起訴されたものの、長い裁判の末に1969年に無罪が確定しました。

晩年

晩年は戦時中の活動経験を中心に執筆活動を行い、『日本兵士の反戦活動』や『「抗日戦争」のなかで』などの著書を残しました。雑誌『民主文学』に「反戦同盟記」を連載中に亡くなっています。墓所は宇佐市覚正寺にあります。

脚注

関連項目

鹿地事件
日本の黒い霧

外部リンク

国民党地区における日本人の反戦運動〔日本労働年鑑 特集版 太平洋戦争下の労働運動148〕 - 法政大学大原社会問題研究所
国民党地区における日本人の反戦運動〔日本労働年鑑 特集版 太平洋戦争下の労働運動153〕 - 法政大学大原社会問題研究所

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