ピニョー・ド・ベーヌ

ピニョー・ド・ベーヌ（Pierre Joseph Georges Pigneau）は、1741年にフランスで生まれ、パリ外国宣教会の神学校を卒業後、1765年に宣教師としてベトナムのコーチシナ（現在のベトナム南部）へ渡りました。彼は、後に阮朝ベトナムを建国する阮福映（グエン・フック・アイン）との出会いをきっかけに、その生涯をベトナムの政治情勢に深く関わることとなります。

1769年、迫害を逃れて一時的にフランス領インドのポンディシェリに滞在し、アドランの名義司教に任じられます。1775年にコーチシナに戻った彼は、西山党の反乱によって追放されていた阮福映と出会い、その復権を積極的に支援しました。ピニョーは、同行したフランス人たちとともに、ヨーロッパ式の軍事技術を阮福映に提供し、彼の軍事力強化に貢献しました。

1787年、ピニョーは阮福映の長男である阮福景を伴い、フランスへ帰国します。彼はルイ16世に謁見し、フランスと阮福映との間で攻守同盟を締結するヴェルサイユ条約の成立に尽力しました。この条約は、フランスがベトナムに進出するための足がかりとなるはずでしたが、インド駐在の軍司令官の反対により、遠征軍の派遣は実現しませんでした。

それでもピニョーは諦めず、武器と義勇兵を集めて1789年にコーチシナへ戻り、西山朝との戦いを続けます。しかし、西山朝の拠点であった帰仁（クイニョン）を攻撃中に捕らえられ、暑さと疲労による衰弱が原因で赤痢にかかり、1799年に58歳でこの世を去りました。

ピニョーの死後、阮福映は彼の遺体を丁重に迎え入れ、自ら弔辞を読みました。ピニョーは生前、安南語（ベトナム語）のラテン語辞書を製作しており、その辞書は死後に出版されました。彼の功績は、ベトナムの歴史に深く刻まれています。

ピニョーの墓は、かつてサイゴンにありましたが、1983年にベトナム社会主義共和国政府によって取り壊され、遺体は焼却された後、フランスへ送られました。現在は、パリ外国宣教会に遺灰が安置されています。ピニョーは、フランスとベトナムの政治的関係を築いた重要な人物であり、その活動は、フランスのベトナム進出の第一歩となりました。彼の生涯は、両国間の歴史を語る上で欠かせない重要な一節です。

参考文献として、小倉貞男著『物語 ヴェトナムの歴史』（中公新書）があります。

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