ピュラコス

ピュラコス（Φύλακος）

ギリシア神話において、ピュラコスという名の人物は複数存在しますが、特に重要なのは以下の二人です。

デーイオーンの子ピュラコス

ポーキス地方の王デーイオーンとディオメーデーの息子で、テッサリアー地方、パガサイ湾の北西に位置する都市ピュラケーの支配者でした。彼はアステロディアー、アイネトス、アクトール、ケパロス、ニーソスといった兄弟姉妹を持ち、オルコメノス王ミニュアースの娘クリュメネーと結婚しました。クリュメネーとの間には、息子イーピクロスと、後に英雄イアーソーンの母となる娘アルキメデーが生まれました。また、アルゴナウタイの一人カパネウスの妻エウアドネーもピュラコスの娘であるという伝承もあります。

このピュラコスは、非常に獰猛で誰も近づくことのできない番犬を飼っており、その犬に彼の聖なる牝牛の群れを守らせていました。ピュロス王ネーレウスは、美しい娘ペーローに多くの求婚者が集まる中、彼女との結婚の条件として、このピュラコスの番犬が守る牝牛を連れてくるという困難な課題を与えました。ネーレウスの兄弟であるビアースはペーローとの結婚を強く望んでおり、彼の兄である優れた予言者メラムプースにこの課題の達成を託しました。ビアースのために牝牛を盗もうと試みたメラムプースは、ピュラコスによって捕らえられ、厳しい牢獄に一年もの間閉じ込められることになります。しかし、メラムプースはその間に牢内で虫たちの会話を聞き、予言者としての自身の能力をピュラコスに示す機会を得ました。

ピュラコスはメラムプースの能力を知ると、彼を牢から解放し、長年子供に恵まれなかった息子のイーピクロスがなぜ子宝に恵まれないのか、そしてその解決策を調べるよう依頼しました。メラムプースはイーピクロスに対し、幼い頃の出来事が原因であること、そしてある特定の儀式と薬草を用いることで治療できることを予言によって示しました。イーピクロスがメラムプースの指示通りにしたところ、後に息子ポダルケースが生まれました。息子が生まれたことを心から喜んだピュラコスは、約束通り、探し求めていた聖なる牝牛の群れをメラムプースに譲ったと伝えられています。ただし、メラムプースが盗もうとした牛は、ピュラコスの牛ではなく、息子イーピクロスの牛であったとする異説も存在します。

トロイア戦争において最初に戦死した英雄プローテシラーオスと、その弟ポダルケースは、このピュラコスの孫にあたるとされていますが、詩人ヘーシオドスはプローテシラーオスの父をピュラコスの兄弟であるアクトールとしており、系譜にはいくつかの伝承があることが伺えます。

デルポイの英雄ピュラコス

もう一人のピュラコスは、アポローンの聖地であるデルポイを守護する半神的な存在、すなわちヘーロースとして知られています。歴史家ヘーロドトスは、彼がペルシア戦争においてデルポイを救った英雄の一人として言及しています。

紀元前480年、ペルシア帝国の大軍がギリシアに侵攻し、デルポイ神殿の豊かな財宝を奪うべく、デルポイへ向かいました。この時、デルポイでは様々な神秘的な異変が起こったと語られています。例えば、本来聖域の奥深くに収められていた神聖な武器が、誰も触れていないのに神殿の外に現れたり、ペルシア軍が聖域の入り口付近にあるアテーナー・プロナイア神殿にまで到達した際、突然雷が彼らを打ち、パルナッソス山からの巨大な落石がペルシア軍に降り注ぎ、多くの犠牲者を出しました。さらに、アテーナー・プロナイア神殿の内部からは、恐ろしいほどの咆哮が響き渡ったと伝えられています。

これらの超常的な出来事を目の当たりにしたペルシア兵たちは、深い恐怖に駆られ、戦意を喪失して撤退を始めました。これを見たデルポイの住民たちは追撃を開始しましたが、逃げ延びたペルシア兵の中には、二人の巨人のような姿をした重装歩兵が、自軍の兵士たちを次々と殺戮しているのを目撃したと証言する者たちがいました。デルポイの人々は、この二人の巨人が、彼らの土地の守護者である半神、ピュラコスとアウトノオスであると語り、デルポイの危機に際して神々によって遣わされ、聖域を守護したのだと信じました。

ピュラコスとアウトノオスの聖域（ヘーローン）は、デルポイの聖域内に存在しており、ピュラコスの聖域はアテーナー・プロナイア神殿の近くに、アウトノオスの聖域はカスタリアの泉のそばにあったと記録されています。このことは、彼らが古くからデルポイの地と深く結びついた守護の霊として崇拝されていたことを示しています。

また、後の時代、デルポイとガリア人との間で戦争が起こった際にも、ピュラコスがヒュペロコス、ラーオドコス、そしてアキレウスの子ピュロス（ネオプトレモス）といった他の半神たちと共に現れ、デルポイを守ったとする伝承も存在します。

これらの伝承から、ピュラコスという名前が、テッサリアーの王家の人物と、デルポイの聖域を守る半神という、異なる性質を持つ二つの重要な存在を指していることがわかります。

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