ピンク四天王

ピンク四天王とは、日活ロマンポルノの終焉後、1980年代後半のピンク映画界を牽引した4人の監督を指す言葉です。佐藤寿保、サトウトシキ、瀬々敬久、佐野和宏の4名で構成され、彼らの作品は、当時低迷していたピンク映画に新たな息吹を吹き込みました。当初は皮肉や蔑称として用いられることもありましたが、現在ではその功績が認められ、肯定的な意味合いで使用されています。また、四人組と称されることもありました。

概要

ピンク四天王は、主にピンク映画制作会社である国映を中心に活躍しました。しかし、佐藤寿保は、日活ロマンポルノの買い取り作品や、ゲイ・ポルノなど、幅広いジャンルで作品を発表しています。佐藤は他の3人よりもデビューが早く、瀬々敬久は佐藤の助監督、佐野和宏は俳優としてキャリアをスタートさせています。サトウトシキは、俳優の佐藤靖が主宰する制作プロダクション、バーストブレイン・プロダクツからデビューしており、初期の作品は同プロから発表されました。後発の3人は、常連女優や助監督が共通していたり、同じ映画のスタッフ、キャストとして参加するなど、繋がりが強くありました。現在、国映作品は新東宝映画（旧称・新東宝興業）が配給しており、オープニングには新東宝映画のものが使用されています。

ピンク四天王の作品は、作家性が強く、弱体化していたピンク映画において、独自の個性を放っていました。寺脇研、阿部嘉昭、切通理作といった映画評論家が彼らの作品に注目し、ロマンポルノと関連付けて評価しました。1990年代初頭には、『キネマ旬報』の不定期連載などで限定的に評価されるに留まっていましたが、彼らの登場によって、ピンク映画が再び識者の評価対象となりました。

しかし、成人映画館の経営者や観客からは、必ずしも高い評価を得ていたわけではありません。彼らの作品は、成人映画館における興行成績としては不振であることが多く、「作家性を重視するあまり、濡れ場など成人映画としてのエンターテインメント性を軽視している」という批判も存在しました。一時期は、興行側から上映をボイコットされたり、別名義で製作に関わったり、国映が単独で作品を配給したりすることもあったようです。ピンク四天王という言葉は、作品が上映されると客足が遠のく代表的な4人の監督として、映画館経営者らが使い始めたとされ、当時はネガティブな意味合いが強かったと言えるでしょう。

転機となったのは、1993年に東京のアテネ・フランセで開催された「新日本作家主義列伝」と題したピンク四天王の作品の連続上映会でした。この上映会は人気を博し、成人映画館とは無縁であった観客層を開拓することに成功しました。以降、ピンク四天王は肯定的な意味でも用いられるようになり、営業の現場でも活用されるようになりました。彼らの作品は、ミニ・シアターやアート系の一般映画館でも上映されるようになり、成人映画ファンだけでなく、アート系映画ファンからも評価を集めました。

しかし、ピンク四天王の作品を鑑賞した観客が成人映画館に流れるという状況は実現せず、現在もピンク映画の製作本数は減少傾向にあります。この背景には、作品の質だけでなく、成人映画館が置かれた状況など、ピンク映画業界が抱える様々な問題が複雑に絡み合っていると考えられます。

1994年に刊行されたムック「銀星倶楽部・桃色映画天国」は、四天王の評価が急速に高まっていた時期におけるピンク映画ガイドであり、多くの賛辞が寄せられています。しかし、成人映画館の館主である藤岡紫浪や、女流監督・浜野佐知の盟友である山崎邦紀からは、「60年代後半から70年代にかけて流行った、反体制的でいささか被害者意識過剰なアウトサイダーの男たちの心情を相変わらず謳いあげてやまない」「男のままごと」「カビの生えた物語の縮小再生産」「性的探究心の欠落はどうしたことか」といった批判も寄せられています。

佐野和宏は男優であり、脚本家としても活動しています。ピンク四天王は、オリジナルの脚本を制作することも多いですが、佐藤寿保と夢野史郎、サトウトシキと小林政広、瀬々敬久と井土紀州といった脚本家とのコンビも見逃せません。また、ピンク七福神の一人である今岡信治も、サトウトシキ作品の脚本を提供しています。小林政広と井土紀州は、映画監督としても活動しています。

佐野和宏を除く3人は、一般映画にも進出しています。特に瀬々敬久は、2019年までに20本以上を監督し、メジャー大作も手掛けるなど、日本映画界の主要な監督の一人として活躍しています。佐藤寿保は、2005年に江戸川乱歩原作のオムニバス映画『乱歩地獄』内で『芋虫』を、吉井怜主演で『刺青』を監督しています。サトウトシキは、早い時期からTV映画に招かれ、須藤温子主演で『ちゃんこ』を監督しています。

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