ピーター・カム

ピーター・カム（金培達、Peter Kam、1961年 8月23日 - ）は、香港出身の作曲家および音楽プロデューサーです。特に映画音楽の分野で数多くの作品を手掛け、その卓越した音楽性は国際的に高く評価されています。

経歴

幼少期から音楽の道へ

1961年に香港で生まれたピーター・カムは、14歳で家族と共にアメリカ合衆国へ渡りました。父はナイトクラブでピアニストとして生計を立てていましたが、夜遅くまで家を空ける仕事であったため、母は息子が音楽の道に進むことに反対していました。このため、彼は父から直接ピアノの手ほどきを受ける機会には恵まれませんでした。しかし、自宅で父が楽譜を書き、リハーサルを行う様子は、幼いカムにとって音楽の感覚と知識を自然と吸収する貴重な経験となりました。

学生時代には、学校のスクールバンドでサクソフォンを担当し、また通っていたキリスト教会でピアノを学びました。大学はサンフランシスコ州立大学に進学し、当初はコンピュータを専攻しましたが、程なくして専門を音楽に変更。Dick Grove音楽学校へと移り、そこで作曲と編曲の高度な技術を習得しました。

キャリアの始まりと飛躍

卒業後、故郷である香港に戻ったカムは、コマーシャルソングの世界でプロとしてのキャリアをスタートさせました。広告音楽で経験を積んだ後、1995年には冼智偉監督の映画『孽戀』（原題）で初めて劇伴音楽を手掛け、映画音楽の世界に足を踏み入れます。

彼の名前が一躍知られるようになったのは、1999年に公開されたジングル・マ監督の恋愛映画『星願あなたにもういちど』でした。この作品で彼は劇伴音楽に加え、主演女優セシリア・チャンが歌う主題歌『星語心願』の作曲も担当。映画は主題歌と共にアジア各地で大ヒットを記録し、その年の第19回香港電影金像奨では、最優秀オリジナル映画音楽賞と最優秀オリジナル映画歌曲賞という主要な音楽部門の賞をダブル受賞するという快挙を成し遂げました。『星願』の成功について、カム自身は、同業の作曲家であるチャン・クォンウィンから寄せられた「音楽に感動した」という言葉が、大きな達成感につながったと後に語っています。同年には、テディ・チャン監督の『パープルストーム紫雨風暴』でも金馬奨最優秀オリジナル映画音楽賞を受賞し、彼の才能が国内外で認められることとなりました。

映画音楽における地位の確立

『星願』や『パープルストーム』での成功以降、ピーター・カムは香港映画界になくてはならない存在となりました。ジングル・マ、テディ・チャン、イー・トンシン、パン・ホーチョン、ピーター・チャンといった名だたる監督たちから繰り返し依頼を受け、これまでに80本以上の映画音楽を担当しています。劇中歌においては、作曲だけでなく自ら作詞やボーカルを務めることもあり、その音楽性は多岐にわたります。

彼はその後も数々の映画賞でノミネートを重ね、香港電影金像奨や金馬奨をはじめ、様々な映画祭で最優秀オリジナル映画音楽賞や最優秀オリジナル映画歌曲賞を受賞し続けています。特に、2006年に公開されたパン・ホーチョン監督作『イザベラ』は、第56回ベルリン国際映画祭で最優秀映画音楽銀熊賞を、さらに第26回香港電影金像奨でも最優秀オリジナル映画音楽賞を獲得するなど、国際的な評価を決定づける作品となりました。

代表作には、『忘れえぬ想い』（2003年）、『ウィンター・ソング』（2005年）、『孫文の義士団』（2009年）、『捜査官X』（2011年）、『コールド・ウォー香港警察二つの正義』（2012年）などがあり、いずれも香港電影金像奨で音楽賞を受賞しています。これらの功績により、彼は現代香港を代表する作曲家の一人としての地位を不動のものとしています。

多岐にわたる活動

ピーター・カムの活動は映画音楽に留まりません。アンディ・ラウ、ジャッキー・チュン、アーロン・クォック、ジャッキー・チェン、ミリアム・ヨンなど、香港・中国圏のトップアーティストたちの楽曲プロデュースや作曲も数多く手掛けています。

また、国家的なイベントにもその才能を発揮しており、2008年の北京オリンピックでは公式ソング『We Are Ready』や『難説再見』を、2009年には中国建国60周年記念ソング『国家』を作曲しました。

以前から舞台音楽も手掛けていましたが、近年は特にミュージカル作曲に力を入れています。2015年には2本の新作ミュージカルが上演されるなど、精力的に活動しています。また、敬虔なクリスチャンであることから、中国語の讃美歌の創作も行っています。

受賞と評価

ピーター・カムは、その長年の功績に対し、香港政府からも高い評価を受けています。2008年には榮譽勳章（Medal of Honour）を、2010年には社會服務獎狀（Certificate of Commendation for Community Service）を授与されました。

彼はこれまでに、金馬奨、香港電影金像奨、ベルリン国際映画祭、アジア・フィルム・アワードなど、国内外の主要な映画祭で多数の音楽賞を受賞しています。特に香港電影金像奨では、9回にわたり最優秀オリジナル映画音楽賞を受賞しており、これは歴代最多受賞記録の一つです。

まとめ

幼少期に音楽の種を育み、渡米して専門的な教育を受けたピーター・カムは、故郷香港でその才能を開花させました。映画音楽を中心に、コマーシャル、歌手への楽曲提供、舞台音楽、さらには国家的なイベントの楽曲まで、幅広い分野で活躍しています。数々の名作を生み出し、多くの受賞歴を誇る彼は、香港だけでなくアジアを代表する作曲家・音楽プロデューサーとして、今もなお精力的に活動を続けています。

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