ピーター・トッシュ

ピーター・トッシュ：レゲエの反逆者、ラスタファリの先駆者

ピーター・トッシュ（本名：ウィンストン・ヒュバート・マキントシュ、1944年10月19日-1987年9月11日）は、ジャマイカ出身のレゲエミュージシャンであり、ラスタファリ運動の重要な担い手でした。彼の生涯は、困難な生い立ちから音楽界での成功、そして社会正義への揺るぎない信念によって彩られています。

激動の生い立ちと音楽への目覚め

ジャマイカのウェストモアランド教区グランジ・ヒルで生まれ、後にキングストン市のスラム街、トレンチタウンに移り住みました。短気で攻撃的な性格から「歩くカミソリ (Stepping Razor)」と呼ばれた彼は、アメリカのラジオから流れる音楽に触発され、ギターと歌を始めることになります。

ウェイラーズ：レゲエの伝説への道

1960年代初頭、音楽の師であるジョー・ヒッグスを通じてボブ・マーリーとバニー・ウェイラーと出会い、運命的な出会いを果たします。スタジオ・ワンのオーディションを経て、3人は息の合ったハーモニーを完成させ、音楽活動を本格化させました。当初は6名からなる「ザ・ウェイリング・ウェイラーズ」として活動を開始し、初期のスカの大ヒット曲「シマー・ダウン」など、数々の楽曲を録音しました。メンバーの入れ替わりを経て、1967年には3名体制となり、「ザ・ウェイラーズ」と改名。ボブ・マーリーがアメリカから帰国した頃には、ピーター・トッシュとバニー・ウェイラーは既にラスタファリ運動に傾倒しており、ザ・ウェイラーズはラスタファリ運動と深く関わるようになりました。

ザ・ウェイラーズは、スカからロックステディ、そしてレゲエへと音楽性を進化させ、政治的・社会的なメッセージを込めた楽曲を発表し続けました。リー・ペリーらプロデューサーとの仕事を通じて、初期レゲエシーンを代表するヒット曲を数多く生み出しました。1970年代には、アップセッターズのメンバー、バレット兄弟の加入により、バンドは更なる安定と創造性を獲得、アルバム制作も開始。しかし、1973年の交通事故をきっかけに、トッシュはアイランド・レコードの社長との確執から、バニー・ウェイラーと共にザ・ウェイラーズを脱退する事になります。

ソロアーティストとしての飛躍と社会へのメッセージ

1973年、トッシュは自身のレーベル「Intel-Diplo HIM（Intelligent Diplomat for His Imperial Majesty）」を設立し、ソロ活動に専念。1976年、CBSレコードよりリリースされたソロデビューアルバム『解禁せよ (Legalize It)』は、ガンジャ解放運動の象徴的アルバムとなり、大きな話題を呼びました。アルバムジャケットでは、トッシュがマリファナをくわえている写真が使用され、そのタイトルと内容が彼の反骨精神を象徴しています。ボブ・マーリーの「ワン・ラブ」が愛と平和を訴える一方、トッシュはジャマイカ社会の偽善を痛烈に批判し、独自のメッセージを発信し続けました。

ローリング・ストーンズのアメリカツアーでオープニングアクトを務めるなど、ソロ活動は順調に進展。ローリング・ストーンズ・レコードからリリースされた『ブッシュ・ドクター』は、ミック・ジャガーとのデュエット曲「ドント・ルック・バック」がヒット。その後も精力的に活動を続け、1987年にはアルバム『核戦争反対 (No Nuclear War)』がグラミー賞の最優秀レゲエ・アルバム賞を受賞しました。

悲劇的な最期とレゲエ史における偉大な功績

1987年9月11日、キングストンの自宅で強盗に襲われ、射殺されるという悲劇的な最期を遂げました。彼の死は、レゲエ音楽界に大きな衝撃を与えました。

ピーター・トッシュは、ウェイラーズの一員として、そしてソロアーティストとして、レゲエ音楽史に大きな足跡を残しました。反体制的な姿勢とラスタファリ運動への深い信仰、そして鋭い社会批判は、現代のアーティストにも大きな影響を与え続けています。彼の音楽と精神は、今もなお世界中のリスナーに深い感銘を与え続けています。

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