ファイト!小児がんプロジェクト

ファイト!小児がんプロジェクトは、小児期に発症する固形がん、特に神経芽腫に対する革新的な治療薬の開発を目的とした研究プロジェクトです。この取り組みは、当初、千葉県がんセンターが千葉大学と連携して開始されましたが、後に佐賀県医療センター好生館が主導する体制となり、国内外の研究機関との連携を深めています。

神経芽細胞腫は、小児がんの中でも比較的多く見られる疾患ですが、その予後は必ずしも良好とは言えません。日本国内では年間約150例が発生するとされています。このプロジェクトは、このような難治性小児がんの治療法向上を目指し、特に副作用の少ない分子標的治療薬の開発に焦点を当てています。

プロジェクトの最も特徴的なアプローチは、分散コンピューティングの活用です。具体的には、World Community Gridというプラットフォーム上で、BOINCクライアントソフトウェアを介し、世界中のインターネットユーザーが自身のコンピューターの計算能力を提供します。これにより、医薬品候補となる多数の化合物の中から、神経芽腫の発生や進行に関わる特定の分子（標的分子）の働きを阻害する可能性のある化合物をコンピューター上で高速にスクリーニングする「バーチャルスクリーニング」が実施されます。通常のスーパーコンピューターでも膨大な時間を要するこの計算を、数万人のボランティアの協力を得ることで、大幅な時間短縮を実現しました。プロジェクト開始当初、55,000年かかると見積もられた計算は、分散コンピューティングによってわずか2年以内の完了を目指しましたが、実際にはそれを上回るスピードで進み、最初の3つの標的分子計算は1年3ヶ月で終了しました。2014年2月23日時点でのべ55,874年以上のCPU時間が提供されています。

このシステムは、専門的な医療や研究の知識がない一般の方でも、自身のコンピューターを通じてプロジェクトに参加し、小児がん治療の研究に貢献できるという点で、非常に開かれた取り組みと言えます。

バーチャルスクリーニングで選抜された有望な化合物は、実際の細胞実験や動物実験へと段階的に進められます。例えば、最初に解析された標的分子に関しては、細胞増殖抑制効果を示す化合物が特定され、極めて低濃度で効果を発揮する7種類の分子標的治療薬候補が同定されました。これらの候補は2014年時点で動物実験の段階を終了し、新薬としての詳細な評価が進められています。特に有望な2種類の候補薬については、「Cancer Res」誌に研究成果が発表されています。引き続き、他の標的分子に関する解析結果も順次論文として報告される予定です。

プロジェクトは多くの成果を挙げてきましたが、現在（情報更新時点からは期間が経過していますが）、一時的に計算が中断している状況です。

2015年11月にはプロジェクトの第2フェーズが発表され、研究体制と対象疾患が拡大されました。このフェーズでは、佐賀県医療センター好生館が主導し、香港大学やテキサス小児科病院といった海外の著名な研究機関とも協力しています。また、研究対象も神経芽腫に加え、肝芽腫やユーイング肉腫など、他の小児がんにも広げられています。これまでのプロジェクトの成果に対しては、日本の医薬基盤研究所や産業革新機構が製薬化に向けた関心を示しており、フランスのAssociation Hubert Gouin: Enfance & Cancerといった小児がん新薬開発を支援する国際的な団体も注目しています。

ファイト!小児がんプロジェクトは、最先端の計算科学と世界中のボランティアの善意を結集させることで、難治性小児がんに対する新たな治療法の確立という困難な目標に挑み、顕著な進展をもたらした、非常に意義深いプロジェクトと言えます。

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