ファリードゥッディーン・アッタール

ファリードゥッディーン・アッタール：ペルシア神秘主義の詩人

ファリードゥッディーン・アッタール（1140年代頃 - 1221年頃）は、ホラーサーン地方ニーシャープール（現在のイラン東部）出身の、ペルシア神秘主義を代表する詩人です。本名はファリードゥッディーン・アブー・ハミード・ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッタール・ニーシャープーリー。単にアッタールとも呼ばれます。

生涯と背景

アッタールは、宮廷詩人や修行者とは異なり、薬物商を営みながら神秘主義的な詩作を行いました。「アッタール」とは薬を扱う商人の意味で、当時のアッタールは医療行為も担っていました。アッタールの生涯は謎に包まれており、伝説的な逸話が多く残されています。晩年には、若き日のルーミーに自作の詩集を贈ったという逸話が有名です。1221年頃、モンゴル帝国の侵攻により殺害されたという説がありますが、定かではありません。

謎に包まれた生涯

アッタールの伝記は、死後数世紀経ってから書かれたものがほとんどです。ジャーミーの『親交の息吹き』やダウラト・シャー・サマルカンディーの『詩人伝』が、初期の伝記として知られています。サマルカンディーの記述によれば、アッタールは114歳でモンゴル兵に殺害されたとされていますが、現在では否定されています。20世紀のイランの研究者、ナフィースィーとフォルーザーンファルは、アッタールの生没年をそれぞれ1142年 - 1230年、1145年 - 1221年頃と推定しています。

作品

アッタールの作品数は114作と言われていましたが、現代の研究では、クルアーンの章数に合わせた数に過ぎないとされています。ナフィースィーとフォルーザーンファルの研究により、『神秘主義聖者列伝』、『鳥の言葉』、『神秘の書』などが真作とされています。

散文

神秘主義聖者列伝

韻文

鳥の言葉：鳥たちが神の象徴であるスィームルグを探す旅を描いた寓話的な物語詩。スーフィズムの階梯を象徴的に表現しています。
神秘の書
神の書
厄災の書
四行詩選集
忠言の書
ホスローの書
アッタール詩集

アッタールの作品は、スーフィー聖者の逸話や比喩を多用し、難解な理論を分かりやすく解説しています。民衆にも理解しやすい物語を用いることで、神秘主義の教義を広めようとしました。アッタールは、その語り口から「生来のストーリーテラー」と評されています。アシュアリー学派の教義を反映した彼の詩は、簡明かつ素朴な言葉で神秘家の心的境地を描き出しています。

影響

アッタールは、ルーミーをはじめとする後世のスーフィー詩人に大きな影響を与えました。ペルシア神秘主義の三大詩人の一人として、その作品は今もなお多くの人々に読まれ、研究されています。

参考文献

『イスラーム神秘主義 聖者列伝』ファリード・ゥッディーン・ムハンマド・アッタール／藤井守男訳、国書刊行会、1998年6月
アッタール『鳥の言葉　ペルシア神秘主義比喩物語詩』 黒柳恒男訳、平凡社東洋文庫、2012年5月
アッタール『神の書　イスラーム神秘主義と自分探しの旅』 佐々木あや乃訳、平凡社東洋文庫、2019年8月

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