ファンシー・ダンサー

『ファンシー・ダンサー』（Fancy Dancer）は、アメリカ合衆国の著名なジャズ・フルート奏者、ボビー・ハンフリーが1975年に録音し発表したスタジオ・アルバムです。この作品は、ハンフリーが長年籍を置いたブルーノート・レコードからリリースされた最後のアルバムとして知られています。

アルバムのサウンドは、ボビー・ハンフリーの流麗なフルート演奏を中心に据えつつ、ラリー・マイゼルとフォンス・マイゼル兄弟がプロデュースとアレンジを担当したことにより、ジャズの枠を超えた多様な音楽要素が融合しています。ワールドミュージック、ソウルジャズ、クラブ・ミュージック、ポップスといったジャンルのテイストが織り交ぜられ、インストゥルメンタル中心の斬新なファンクサウンドが展開されています。マイゼル兄弟は、単なるプロデューサーとしてだけでなく、プレイヤーとしても本作に参加し、シンセサイザーやトランペット、ボーカルなどでサウンドの構築に深く貢献しています。

商業的な反響としては、前作にあたる1974年の成功作『サテン・ドール』ほどの大きなヒットとはなりませんでした。アメリカの主要アルバムチャートであるBillboard 200では最高133位にとどまっています。しかしながら、専門ジャンルのチャートでは健闘しており、『ビルボード』のR&Bアルバム・チャートでは24位、ジャズ・アルバム・チャートでは12位を記録しました。また、本作からのシングルカット曲「ウノ・エスタ」は、『ビルボード』のR&Bシングル・チャートで82位にランクインしています。

批評家からの評価は概ね高く、音楽評論サイト「オールミュージック」のトム・ユーレックは、本作に5点満点中4点の評価を与えています。彼は、アルバム全体を通してクオリティが高く、いわゆる「捨て曲」がないことを指摘。「中途半端な瞬間はなく、全編とも強力で捨て曲がない」と評しました。さらに、本作が「ワールドミュージック、ソウルジャズ、クラブ・ミュージック、ポップスなど、ハンフリーとマイゼル兄弟が織り込める限りの要素を内包した、斬新なインストゥルメンタル中心のファンクを創造している」と述べ、その音楽的な幅広さと革新性を高く評価しています。

後世の音楽にも影響を与えており、特にヒップホップの世界で本作の楽曲がサンプリングされています。例えば、ウィズ・カリファとカレンシーが2013年に共同でリリースしたEP『Live in Concert』では、本作に収録されている「ユー・メイク・ミー・フィール・ソー・グッド」と「プリーズ・セット・ミー・アット・イーズ」の楽曲がサンプリングとして使用されました。

本作には、以下の全7曲が収録されています。

- ウノ・エスタ - "Uno Esta" (Larry Mizell) - 6:46
- ザ・トリップ - "The Trip" (Chuck Davis, Doug Jones) - 5:41
- ユー・メイク・ミー・フィール・ソー・グッド - "You Make Me Feel So Good" (L. Mizell, Fonce Mizell) - 6:16
- ファンシー・ダンサー - "Fancy Dancer" (Jerry Peters) - 5:47
- メスティゾ・アイズ - "Mestizo Eyes" (L. Mizell, F. Mizell, Warren Jordan) - 4:51
- スイーター・ザン・シュガー - "Sweeter Than Sugar" (C. Davis, Skip Scarborough) - 4:23
- プリーズ・セット・ミー・アット・イーズ - "Please Set Me at Ease" (L. Mizell, F. Mizell, Ruby Mizell) - 6:09

アルバムの制作には、ボビー・ハンフリー自身に加えて、多くの才能豊かなミュージシャンが参加しています。以下は主な参加メンバーです。

- ボビー・ハンフリー - フルート、ボーカル
- ラリー・マイゼル - シンセサイザー、ソリーナ、ピアノ、エレクトリックピアノ、ボーカル
- フォンス・マイゼル - トランペット、クラビネット、ソリーナ、ボーカル
- ジェリー・ピータース - ピアノ、エレクトリックピアノ、シンセサイザー
- チャック・デイヴィス - ピアノ、エレクトリックピアノ
- スキップ・スカボロー - ピアノ、エレクトリックピアノ、クラビネット
- クレイグ・マクミューレン - ギター
- ジョン・ロウィン - ギター
- チャック・レイニー - ベース
- ハーヴィー・メイソン - ドラムス
- マユト・コリア - コンガ
- ロジャー・グレン - マリンバ、ヴィブラフォン
- ドロシー・アシュビー - ハープ
- タイリー・グレン・ジュニア - テナー・サクソフォーン
- オスカー・ブラシアー - トランペット
- ジュリアン・プリースター - トロンボーン
- オージー・レイ、キャサリン・ライラ、ジェシ・アクーニャ、ソニア・タヴァレス、ロザリオ・ダヴィラ - バックグラウンド・ボーカル
- ジェイムズ・カーター - 口笛 (収録曲「スイーター・ザン・シュガー」にて)

『ファンシー・ダンサー』は、ブルーノート時代のボビー・ハンフリーの音楽性の集大成とも言える作品であり、ジャズファンクやクロスオーバーの歴史において重要な位置を占めるアルバムの一つです。

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