フアン・ベラスコ・アルバラード

フアン・ベラスコ・アルバラード：ペルー革命の軍事指導者

フアン・ベラスコ・アルバラード（1910年 6月16日 - 1977年 12月24日）は、ペルーの軍人、政治家であり、20世紀後半のペルーに大きな影響を与えた大統領です。

生涯

生い立ち

1910年、ペルー北部のピウラで、代書人の息子として生まれました。幼少期は貧困の中で育ちましたが、努力の末に高校を卒業。その後、首都リマへ上京し、1929年にペルー陸軍に入隊しました。陸軍では士官学校に進み、着実に昇進を重ね、1959年には将軍に任命されるまでになりました。

政治的背景

1960年代のペルーは、政治的に非常に不安定な時代でした。1962年には、シエラ（山岳地帯）のクスコ県で、ウーゴ・ブランコ率いる農地改革を求めるゲリラが蜂起。1965年にも、キューバ革命の影響を受けたルイス・デ・ラ・プエンテが革命左翼運動（MIR）を率いて蜂起するなど、社会不安が高まっていました。

ペルー陸軍は、これらのゲリラ鎮圧に尽力しましたが、その過程で8,000人以上の貧しい農民が犠牲となりました。また、鎮圧のためにアメリカ軍へ要請したナパーム弾の供与を拒否されたことが、ペルー社会の遅れとアメリカへの不信感、そして改革の必要性を軍人に痛感させることになりました。

政権樹立と改革

無血クーデター

このような社会情勢の中、ベラスコは1968年 10月3日に無血クーデター（Gobierno Revolucionario de las Fuerzas Armadas）を実行し、当時のフェルナンド・ベラウンデ・テリー大統領を追放して政権を掌握しました。その翌日には、タララ協定（El Acta de Talara）の無効化を宣言し、国民の支持を得ました。この協定は、ベラウンデ・テリー政権がスタンダード・オイル系のインターナショナルオイル（IPC）と結んだものでしたが、IPCが違法に採掘した石油代金の支払いをめぐる不正疑惑があり、国民の不満が高まっていました。ベラスコは10月9日にIPCの全資産を接収し、国民から喝采を浴びました。

軍部革命政権

ベラスコは自らの政権を「軍部革命政権」と位置づけ、国家の構造的改革を推進しました。反帝国主義を掲げ、東ヨーロッパ諸国との国交を樹立。1969年2月には、ペルーの200海里を侵犯したアメリカのマグロ漁船を拿捕するなど、自主外交と対米従属からの脱却を目指しました。

1969年6月24日には、トゥパク・アマルー2世の標語とともに農地改革法を公布し、南米最大規模の農地改革を実施しました。これにより、ペルーの地主寡頭支配層は解体され、政権の正統性は大きく強化されました。

社会主義への道

ベラスコ政権は、「資本主義でも共産主義でもない人間的な社会主義」を目指し、ユーゴスラビアの自主管理社会主義をモデルとしました。司法改革、全国社会動員機構（SINAMOS）の設立、先住民の復権など、多岐にわたる政策を推進し、民衆からの支持を集めました。

経済面では、外国資本からの従属を脱却し、国民経済の確立を目指しました。セロ・デ・パスコ銅会社や漁粉会社などの国有化、銀行への統制強化などを進めました。外交面では、アメリカ一辺倒の外交から転換し、中華人民共和国、ソビエト連邦、キューバなどとの国交を樹立し、国際的な交流を深めました。

ベラスコの軍事革命政権は、アンデス諸国やパナマの政権に影響を与え、一つのモデルとなりました。また、ベネズエラのウゴ・チャベスに政治改革に関する書物を手渡したエピソードも残っています。

失脚とその後

しかし、ペルー経済は低迷し、1973年のオイルショックがさらに状況を悪化させました。ベラスコ自身の健康も悪化し、政権内部の不和が表面化するようになりました。チリ・クーデターによるアジェンデ政権の崩壊、周辺国の軍事政権樹立など、国際的な孤立も深まりました。

国内では、軍部の権威主義的な姿勢と民衆参加の乖離、経済的失策などから、国民の不満が高まりました。1975年2月にはリマで暴動が発生し、軍が出動する事態となりました。同年8月29日、ベラスコはフランシスコ・モラレス・ベルムデス将軍による無血クーデターによって失脚しました。

1977年 12月24日、ベラスコはリマの病院で死去しました。その葬儀には、彼を敬愛する多くの人々が参列しました。

評価

ベラスコの政策は、意図した従属経済の克服には至らず、官僚化が進むなどの負の側面もありました。農地改革も、農村ゲリラの台頭を招いたとの見方もあります。

しかし、ベラスコはペルーの病理に対して抜本的な対策を講じた人物として評価されています。インディオの復権を進め、彼らが自尊心を取り戻すきっかけを作りました。また、人権問題や自主外交などのテーマについて公然と議論できる社会へと変革した功績は否定できません。

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