フアン・マヌエル

ドン・フアン・マヌエル：中世カスティーリャの王族、作家、政治家

ドン・フアン・マヌエル（1282年5月5日 - 1349年6月13日）は、カスティーリャ王国の王族であり、アルフォンソ11世の幼少期に摂政を務めた人物です。彼はまた、中世スペインを代表する散文作家の一人としても知られています。

生涯

ドン・フアン・マヌエルは、カスティーリャ王フェルナンド3世の息子マヌエル王子の子供として、エスカローナで生まれました。幼くして父を亡くし、王宮で育てられた彼は、従兄であるサンチョ4世の寵愛を受け、12歳でムルシアの領主となります。その後、フェルナンド4世の侍従を務めました。

彼は、学芸の庇護者であった伯父アルフォンソ10世の影響を強く受け、幼い頃から豊富な蔵書に親しみました。この経験が、彼の作家としての成長を促したと言えるでしょう。『狩猟の書』の序文では伯父への尊敬の念を表明する一方で、レコンキスタを宗教的な戦いとは一線を画した視点から捉え、合理的な思考の持ち主であったことが伺えます。

1312年にフェルナンド4世が死去すると、アルフォンソ11世が成人するまでの間、ドン・フアン・マヌエルは摂政の一人として政治に関与します。しかし、実際には複数の王族による集団指導体制であり、権力争いが絶えませんでした。彼は他の後見人たちの死後、摂政の座を巡って争いますが、1325年にアルフォンソ11世が親政を開始すると、状況は一変します。

彼は当初、王の政策に反発し、反乱を起こしますが、最終的には和解し、カスティーリャに戻ります。その後、サラードの戦いやアルヘシラス占領に参加するなど、軍事面でも貢献しました。

著作

ドン・フアン・マヌエルは、詩人、寓話作家としても知られ、14の著作があったとされています。しかし、現存するのは7本のみです。彼の代表作である『ルカノール伯爵』は、51の寓話からなる物語集であり、スペイン散文の発展に大きく貢献しました。この作品は、アンデルセンの『裸の王様』やシェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』の原話としても知られています。

子女

彼は生涯で3度の結婚を経験し、多くの子をもうけました。娘の一人であるフアナ・マヌエルは、後にトラスタマラ家の王エンリケ2世の王妃となりました。

ドン・フアン・マヌエルは、政治家としてだけでなく、作家としても重要な足跡を残しました。彼の作品は、中世スペインの社会や文化を理解する上で貴重な資料であり、後世の文学にも大きな影響を与えました。

参考文献

ドン・フワン・マヌエル 著、橋本一郎 訳『ルカノール伯爵』大学書林、1984年7月。ISBN 978-4-475-02279-8。
ドン・フアン・マヌエル 著、牛島信明・上田博人 訳『ルカノール伯爵』国書刊行会〈スペイン中世・黄金世紀文学選集 3〉、1994年12月。ISBN 978-4-336-03553-0。
池上岑夫ほか監修『新訂 スペイン・ポルトガルを知る事典』平凡社、2001年。
芝修身『古都トレド 異教徒・異民族共存の街』昭和堂、2016年。
* 西川和子『スペイン レコンキスタ時代の王たち 中世800年の国盗り物語』彩流社、2016年。

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