フィアット・124

フィアット124：イタリアが生んだ国民車とその世界的な広がり

1966年、フィアットは1300/1500の後継として、フィアット124を発表しました。これは、開発コードをそのまま車名とした初めてのモデルであり、当時社長に就任したばかりのジャンニ・アニェッリにとって最初のニューモデルでもありました。

初代フィアット124：シンプルで実用的な魅力

初代124は、装飾を廃したシンプルな箱型ボディの4ドアセダンでした。しかしその実態は、軽量設計と優れたバランスによる軽快な走りで人気の小型ファミリーカーでした。このクラスでは珍しく、発売当初から4輪ディスクブレーキを採用。リアサスペンションにもコイルスプリングを採用するなど、先進的な技術が盛り込まれていました。

心臓部である1198ccのOHVエンジンは、元フェラーリの主任技術者アウレリオ・ランプレディによる設計です。「ランプレディエンジン」として知られるこのエンジンは、DOHC化された高性能版を含む様々なバリエーションが開発され、フィアットグループの多くの車種に30年以上にわたって搭載されました。その信頼性と性能は、WRC（世界ラリー選手権）で数々の勝利をもたらし、フィアットの成功を支える名機となりました。

1967年には「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、その実力を世界に認められました。

多様なバリエーション：ユーザーニーズに応える展開

フィアット124は、4ドアセダンに加え、5ドアワゴン、そしてスポーティなスペシャル、スポルトスパイダー、スポルトクーペと、幅広いバリエーションを展開しました。

4ドアベルリーナ：多様なニーズに対応した進化

初期の1197ccモデルに加え、1438ccエンジンを搭載した「スペシャル」が登場。丸型4灯ヘッドライトが採用され、デザインも大きく変更されました。さらに、DOHCエンジンを搭載した「スペシャルT」も登場し、トップモデルとして君臨しました。その後もマイナーチェンジを重ね、排気量や出力の向上、デザインの変更が行われました。日本への輸入は当初から行われていましたが、シンプルなデザインが日本の市場の嗜好と合わず、販売台数は伸び悩みました。しかし、1974年に再開されたフィアットの輸入では、対米輸出仕様の124スペシャルTが販売され、一定の成功を収めました。

スポルトスパイダー：洗練されたオープンエアモデル

1966年に発表された2ドアスパイダーは、ピニンファリーナによる美しいデザインが特徴です。ベルリーナと共通のシャシーをベースにしながら、ホイールベースを短縮。DOHCエンジンと5速ギアボックスを搭載し、高い走行性能を誇りました。幌の構造も独自の工夫が凝らされ、後部側面ガラスにより、雨天時でも高い視界を確保。後部座席とトランクスペースも備え、実用性も兼ね備えていました。マイナーチェンジを経て、エンジン排気量の拡大や、パワーバルジの追加などの改良が行われ、1982年にはピニンファリーナブランドで「ピニンファリーナ2000スパイダー」として販売が続けられました。20年間にわたって製造され、約15万台が生産されました。

スポルトクーペ：スポーティな走りとスタイリッシュなデザイン

1967年に登場したスポルトクーペは、フィアット自社デザインの2ドア4座クーペです。スパイダーと同じDOHCエンジンを搭載し、軽快な走りを提供しました。マイナーチェンジを経て、ヘッドライト、テールライト、エンジン排気量などが変更されました。日本でも人気があり、輸入販売されました。

世界に広がる124：ライセンス生産とグローバルな展開

フィアット124は、イタリア国外でも大規模にライセンス生産やノックダウン生産されました。特に旧ソ連では「ラーダ・VAZ-2101」として生産され、その生産台数は膨大な数にのぼりました。その他、インド、スペイン、トルコ、韓国などでも生産され、世界各国の自動車文化に多大な影響を与えました。ロシアでは2012年まで生産が続けられ、40年以上にわたって愛され続けるロングセラーとなりました。 各国の市場やニーズに合わせて、エンジンや仕様が変更されたことも、その成功要因の一つと言えるでしょう。

フィアット124は、シンプルながらも優れた設計と、多様なバリエーション、そして世界各国でのライセンス生産を通じて、長く愛され続ける名車となりました。その歴史は、自動車産業におけるグローバル化の大きな流れを示す、象徴的な事例と言えるでしょう。

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