フィアット・128

フィアット128：革新と成功の物語

フィアット128は、イタリアの自動車メーカー、フィアット社が1969年から1985年まで製造した小型乗用車です。この車は、その革新的な前輪駆動システムと優れたパッケージングにより、技術的にも商業的にも大きな成功を収め、自動車史に名を刻む名車となりました。

ジアコーサ式前輪駆動：画期的な技術

128の最大の特徴は、フィアットの主任設計者であるダンテ・ジアコーサによって開発された「ジアコーサ式前輪駆動」方式を採用している点です。エンジンとトランスミッションを直列に配置し、車軸と並列に横置き搭載することで、省スペース化と生産性の向上を実現しました。このレイアウトは、その後世界中の多くの前輪駆動車に採用されることとなり、自動車技術に大きな影響を与えました。

開発までの道のり：技術革新への歩み

フィアット社は、1966年に後輪駆動の124を発表したのを機に、120番台のモデルナンバーを用いるようになりました。128は、この124と同じく戦後第2世代シリーズに属するモデルと言えるでしょう。それ以前のフィアットの戦後第1世代シリーズは、モノコックボディを採用したモデル群で、ジアコーサが設計を手掛けた1100や1400といったモデルは、商業的な成功を収めていました。

しかし、ジアコーサは保守的な技術者ではなく、コンパクトカークラスにはリアエンジン方式を採用するなど、柔軟性も持ち合わせていました。早くから前輪駆動方式に着目していた彼は、1947年には既に横置きエンジンの前輪駆動車の企画を立てていましたが、当時の技術的な課題により実現には至りませんでした。

その後、1959年に登場したBMCミニが大きな転機となります。ミニのレイアウトは、実用的な直列4気筒エンジン車としては初の横置き前輪駆動であり、ジアコーサに大きな感銘を与えました。しかし、ミニの方式には課題もあったため、ジアコーサはそれを克服した新たな方式を開発しました。

ジアコーサ式前輪駆動とプリムラ：実用化への試み

ジアコーサは、エンジンとギアボックスを直列につなぎ、90度回転させて横置きにするレイアウトを採用しました。ギアボックスの駆動力出口を入力側とし、差動装置のみを下方に突出させることで、スペース効率を最大限に高めました。この方式では、左右のドライブシャフトの長さが異なるためトルクステアの問題がありましたが、等速ジョイントの精度向上やサスペンションの工夫により、実用レベルで解決しました。

この方式を採用した最初の車は、フィアット傘下のアウトビアンキ・プリムラ（1964年）でした。プリムラでの成功を経て、フィアット128の開発へと繋がります。

128の心臓部：ランプレディ設計のSOHCエンジン

128には、アウレリオ・ランプレディが設計したSOHCエンジンが搭載されました。このエンジンは、高回転型で、高い出力と優れた効率性を両立していました。ランプレディは、以前フェラーリで培った経験を活かし、ベルトドライブカムシャフトのSOHC、5ベアリング、カム直打式という高度な設計を採用しています。

128のパッケージング：優れた空間効率

128は、直線基調のシンプルなデザインで、広々とした室内空間と荷室を実現していました。全長は旧型の1100よりも短いにもかかわらず、ホイールベースは124よりも長く、フラットなフロアを実現していました。これは、前輪駆動方式によるメリットを最大限に活かした結果です。

走りの性能：四輪独立懸架

サスペンションには四輪独立懸架を採用。フロントにはマクファーソンストラット、リアには横置きリーフスプリングとストラットを組み合わせた独自のシステムを用いることで、優れたハンドリングを実現しました。

デビューから生産終了まで：多様なバリエーション

1969年3月にデビューした128は、当初4ドアセダンと2ドアセダンがラインナップされました。その後、ステーションワゴン、クーペ、ラリーモデルなどが追加され、多様なニーズに対応できるモデル展開となりました。1985年までに350万台以上が生産されました。

世界への影響：前輪駆動方式の普及

フィアット128のジアコーサ式前輪駆動方式は、世界中の自動車メーカーに大きな影響を与え、その後多くの前輪駆動車の設計に採用されました。ホンダ・シビックやフォルクスワーゲン・ゴルフなどもその影響を受けています。

派生モデル：128ラリーと128クーペ

128ラリーは、スポーティなモデルとして1971年に登場しました。1290ccエンジンを搭載し、専用のトランスミッションや内外装が採用されていました。128クーペは、1971年に発表された2ドアクーペで、シャシーを短縮したスポーティなモデルでした。

日本でのフィアット128

日本へは1970年代に輸入されましたが、質素なスタイリングや装備が災いし、当初は販売は振るいませんでした。その後、輸入元が変更され、販売が再開されました。

フィアット128は、革新的な技術と優れたパッケージング、そして高い商業的成功を収めた、自動車史に残る名車です。その技術は、後の自動車デザインに多大な影響を与え、現在でもその功績は高く評価されています。

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