フィタン酸

フィタン酸

フィタン酸（Phytanic acid）は、分子構造に枝分かれを持つ、特徴的な分岐鎖脂肪酸の一種です。

摂取源と食事からの量

この脂肪酸は、ヒトの体内では合成されず、主に食事を通して摂取されます。主要な供給源としては、牛や羊といった反芻動物の脂肪組織が挙げられます。特に、牧草で育てられた牛（グラスフェッド牛）の脂肪には多く含まれることが知られています。また、これらの動物から得られる乳製品、例えばバター、エダムチーズ、エメンタールチーズ、その他の硬質脂肪チーズ、牛乳、アイスクリームなども、フィタン酸の重要な摂取源となります。特定の種類の魚類にも含まれています。

推定によると、一般的な西洋型の食事には、一日あたりおよそ50ミリグラムから100ミリグラムのフィタン酸が含まれていると考えられています。興味深いことに、食事の内容によって体内のフィタン酸濃度は大きく変動します。例えば、イギリスのオックスフォード大学が実施した研究では、日常的に肉類を摂取する人々の血中フィタン酸濃度が、菜食主義者（ベジタリアン）と比較して幾何平均で約6.7倍も高いことが明らかになっています。このことから、フィタン酸の体内蓄積は、食習慣、特に動物性脂肪の摂取量と密接に関連していると考えられます。

生化学的な働き

フィタン酸は体内で代謝を受けますが、その分解経路は一般的な直鎖脂肪酸とは異なり、α酸化と呼ばれる特殊なプロセスによって行われます。また、フィタン酸やその代謝物であるフィテン酸やプリスタン酸といった物質は、生体内で様々な生理機能に関与することが示唆されています。特に、これらは細胞の核内に存在する特定の受容体である転写因子、例えばPPAR-α（ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ）やレチノイドX受容体（RXR）と結合し、これらの受容体を活性化させることが報告されています。これらの転写因子は、脂質代謝や糖代謝、炎症反応など、多岐にわたる遺伝子の発現を調節する重要な役割を担っています。フィタン酸がこれらの受容体を介して細胞機能に影響を与えるメカニズムについては、現在も研究が進められています。

健康との関連

フィタン酸の代謝異常は、ヒトにおいて特定の遺伝性疾患と関連しています。その代表的な例がレフサム病（Refsum disease）です。この疾患は、フィタン酸を分解するためのα酸化経路に関わる酵素の機能が低下しているために、体内にフィタン酸が異常に蓄積することで発症します。フィタン酸の蓄積は、神経系、骨格系、聴覚器、視覚器などに様々な症状を引き起こすことが知られています。

このように、フィタン酸は日常的な食事から摂取される成分でありながら、その代謝経路や生化学的な作用、さらには遺伝的な代謝異常との関連など、生命現象において様々な側面を持つ物質と言えます。

関連事項

α酸化
PPAR
* レフサム病

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