フィラレート (モスクワ総主教)

フィラレート（Филарет）について

フィラレート（1553年 - 1633年10月1日）は、ロシア正教会の重要な指導者として知られているモスクワ総主教であり、1619年から1633年までその地位にありました。また、彼の世俗名はフョードル・ニキーチチ・ロマノフであり、ロマノフ家の一員として、ロシアの歴史において非常に重要な役割を果たしました。彼はミハイル・ロマノフの父であり、雷帝イヴァン4世の妻アナスタシアは彼の叔母にあたります。

俗人時代の経歴

フョードル・ニキーチチ・ロマノフの名前が初めて記録に残ったのは1585年頃、フョードル1世に付き従いノヴゴロドに向かう行軍の際でした。彼は1586年には貴族の位を得ており、1590年には軍の指揮官としてスウェーデンに出征しました。彼はニジニ・ノヴゴロドの代官を経て、1598年にフョードル1世が亡くなると、有力候補としてツァーリの席を狙いましたが、ボリス・ゴドゥノフが選ばれました。その後、ロマノフ家が政権から失脚すると、フョードルも剃髪され、アントニエフ・シースキー修道院に流されたのです。

修道士としての新たな人生

ボリス・ゴドゥノフはフョードル・ロマノフに対して強力なライバルと見なし、彼とその妻がそれぞれ修道士になることを強制しました。このことでフョードルは修道士となり、フィラレートという修道名を受けました。夫妻にはミハイルという息子がおり、後にツァーリとなりました。このため、フィラレートとミハイル・ロマノフが親子であるという異例の状況が生まれました。

総主教としての功績

ボリス・ゴドゥノフの死後、ロシアは後継者問題で混乱が続きましたが、その後の大動乱を経てミハイル・ロマノフがツァーリに選ばれました。16歳の彼は非常におとなしい性格だったため、実権は貴族たちによって握られていました。この時代、ツァーリの権力はまだ十分に確立されておらず、貴族たちが権力を抑制する意図を持って選出されたのです。

1619年、フョードルからフィラレートに改名した彼は、総主教エルモゲンの後任としてモスクワ総主教に着任しました。フィラレートは、軍制改革を含むさまざまな政治改革を推進し、国家の復興に努めました。彼は喪われていた国土の回復を目指し、精力的に働きましたが、ミハイル自身が政務にあまり興味を示さなかったため、その政策の影響は限られていました。総主教フィラレートの統治は、ビザンティン帝国と正教会の調和の理念に反し、後の正教会関係者からは批判を受けることとなりました。

政治的意義と批判

17世紀の初め、ツァーリの権力は絶対的なものではなく、フィラレートの統治に見られるように貴族たちの影響力が強かったことは特徴的です。しかし、このビザンティン・ハーモニーという概念の崩壊は、教会と世俗権力の相互不可侵性という理念を脅かし、教会への世俗からの介入やその逆の状況を作り出す政治力学が複雑化しました。結果として、フィラレートの統治はロシア正教会の歴史において深い考察を必要とする重要な時代を形成したのです。

参考文献

• - 川又一英『イコンの道 ビザンティンからロシアへ』東京書籍
• - 三浦清美『ロシアの源流』講談社選書メチエ
• - 高橋保行『ギリシャ正教』講談社学術文庫
• - I.S.ベーリュスチン著／白石治朗訳『十九世紀ロシア農村司祭の生活－付　近代ロシアの国家と教会－』中央大学出版部

関連項目

• - ロシア正教会

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